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建築デザイン学部・理学部 × かがくの里 (所さんの目がテン!)
隈研吾氏設計の母屋。
豊かな生態系と共存する
「かがくの里」で学生たちが
得た学びとは?
プロジェクトの背景
隈研吾氏設計の
母屋を起点に、
里山文化や生態系に触れる
「かがくの里」という場所をご存知だろうか?人の手を離れた荒れ地を科学者たちの知恵で豊かな里山へと変貌させる、日本テレビの番組『所さんの目がテン!』のプロジェクトから生まれた場所だ。そんな「かがくの里」に2025年の秋、独創的なデザインの「母屋」が完成した。その意匠設計を手がけたのは、建築デザイン学部の特別招聘教授である隈研吾氏。そして同じく建築デザイン学部の江尻憲泰教授が構造設計を担当した。この母屋は、伝統的な技術と現代的なデザインを融合させているばかりではなく、里山の豊かな生態系と調和する工夫が散りばめられている。
日本女子大学の2人の教員が関わるこの建物を起点に、人が切り拓いた里山という環境や、そこに生息する植物や生物が作用し合う循環に触れ、本来、人の暮らしが自然と共にあるということを感じてもらえたら。そんな想いから、「かがくの里」へのフィールドワークが企画された。
本企画は全学で参加学生を募り、建築デザイン学科やミクロの世界で生物にまつわる研究をしている化学生命科学科を中心に、多くの学科から学生たちが参加した。五感を存分に使いたっぷり気づきを得た彼女たちを追う。
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プロジェクトの流れ
01
植物や土に触れながら、
里山という環境を知る
参加した学生は、事前学習として隈研吾氏の動画講義を受け、建物と自然物の関係性や昔ながらの里山がどのような意味を持っていたのかなどを学び当日を迎えた。「かがくの里」は、本来は広大な敷地を要する里山の要素をコンパクトに集約しているため、人の暮らしと自然の関わりが見えやすく、隈氏が映像の中で話していた内容も理解しやすい。フィールドワークでは、そんな里山の中に学生たちが身を置き、班ごとにポイントを巡りながら各分野の専門家たちの解説に熱心に耳を傾けた。
かがくの里の真ん中に配置された小さな田んぼは、ちょうど田植えの準備段階。稲が育つようにトラクターを使って土を砕き田んぼを平らにする「代掻き(しろかき)」作業に学生も参加し、普段何気なく食べているお米にかけられている人の手間を知った。
また、母屋の前に広がる畑では、野菜を育てるための「草取り」も体験。農業の専門家による雑草と野草の解説を受け、生息する植物や虫も観察しながら雑草を抜く作業を行った。
畑から見晴らしの良い麓(ふもと)の方に視線をやると、気持ちのいい風を感じる。「ここは海からの卓越風※が森で冷やされて、涼しい風が上がってくるんです」と隈研吾建築都市設計事務所の設計チーム。母屋の屋根がめくれたデザインになっているのは、その気持ちがいい風を建物に取り込むためだ。そして「森を背負いながら建物(母屋)があり、その前に田畑が切り開かれているという里山の風景を再現したのが、かがくの里。後から加わった母屋は、この場所における循環の新たな要素として“入れてもらう”感覚で設計しました」と彼らは学生たちに語った。
※最も頻度の高い風向の風
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02
昆虫を観察し、そこから巡る
自然循環を想像する
田んぼの代掻きによって出てきたシマゲンゴロウなどの水生昆虫や、草取り作業で出てきた小さな昆虫など、「かがくの里」ではいたるところで生き物と出会う。学生たちは虫を探しながら、昆虫の専門家たちから昆虫の特徴や生息地、植物との関係などについて幅広く話を聞いた。その後向かったのは小さな小屋。そこは茅葺き(かやぶき)屋根の端材を肥料にするために積んでいた場所で見つかったカブトムシの幼虫を保護するためのもの。学生たちは、藁(わら)の中から取り出した幼虫に光沢があり、汚れもほとんどついていないことに注目。それには、カブトムシディフェンシンと呼ばれる抗菌性の物質による免疫システムが関係しているとの解説を受けた。
蜂の専門家からはかがくの里をきっかけに地域で広がるニホンミツバチの養蜂について話を聞いた。この里山の計画が始まった頃にはセイヨウミツバチで養蜂をスタートしたものの、スズメバチの襲来を受け壊滅。その1年後、巣を作りはじめたのがニホンミツバチだったそう。「ミツバチがいることで、この里山のさまざまな植物が受粉して実がなります。そして、その実や種を動物たちが食べたり、土に落ちたものが芽を出したり。そうやって森の生物多様性が育まれていくんです」とのこと。ニホンミツバチは、主に巣から半径1〜2キロほどの範囲に咲く花から蜜を集めるため、この10年で庭先に巣箱を置いて養蜂をしている家も増え、今ではその数、約80箱。「かがくの里」をきっかけに、生き物とともに暮らすというスタイルがこの地域にも広がっているという。
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03
母屋を通して、人の暮らしも自然
と共にあると理解する
隈研吾氏が意匠設計を担当した母屋には、この里山での循環が盛り込まれていた。ひとつは、この建物のポイントである広々とした土間。原材料には里の土、淡路島の土、砂、近隣の川の砂利、生石灰、にがりを溶かした水など自然由来の材料が用いられ、作り方も昔ながらの方法で時間をかけて2層の叩き仕上げが施されている。当時の苦労話を興味深く聞き、学生たちは繊細かつ緻密な作業の数々を知ると共に、人の手によって作られるものの魅力について理解を深めた。
視線を土間から天井に。包まれるような丸いフォルムの茅葺き屋根にも数々のこだわりが詰まっている。現在は、茅葺き屋根は需要がなくなり、茅場(茅を育てる草地)もかなり限られていることから、この地域で昔から用いられていたという2層構造を取り入れている。それは、外側は強度がある茅で守りつつも、内側は茅よりもやわらかい藁で補うというもの。10年前後で葺き替える必要があるが、使い終わった茅や藁も米糠などを加えて発酵させることで堆肥へと生まれ変わる。また、屋根のてっぺんには、止水のために土を盛って草を植える芝棟(しばむね)という昔ながらの手法を導入しており、そこにも生き物が住み着いているという。母屋も循環の一部であり、ここでの人の暮らしは植物や生き物とともにある。
そして、この建物を安全に保つ構造設計や、屋根を支える柱の荷重計算については、江尻建築構造設計事務所が解説した。基礎には裏山で切り出した木材が使われ、強度を下げないためにビニールハウスで自然乾燥させた丸太材を用意したそう。学生たちは、里山という環境に身を置き、そこに暮らす植物や生き物を通して生態系を目の当たりにしながら、母屋を通して人と自然が共に生きる知恵を学んだ。
これからの展望 TO THE NEXT
視野を広げ、
自然保全や人の暮らしとの
持続可能性を探る
フィールドワークを通して、それぞれの学科の専門分野から大きく関心領域を広げ、自然循環と人の暮らしの関係性について学ぶことができた。建築デザイン学科では、隈研吾氏による特別講義も予定しており、「かがくの里」に盛り込まれた里山文化と人の暮らしについて、より深く理解する機会になりそうだ。
また、都市デザインと生態系の研究を組み合わせて、里山の保全と地域の人の暮らし、またそれらの地域の将来設計について考えていく学内でのプロジェクトも進行している。まちづくりの側面からも里山のあり方に注目し、集落や社会にフォーカスして実際に生活している人たちの話を聞くなど、今回のフィールドワークから派生した機会も作ってみたいと建築デザイン学部の片山学部長は話す。