プロジェクトの背景
産学を繋いだ
「おいしさと健康の一致」
という共通目標
日本女子大学の食科学科(※)は、1901年の開校当初から健康だけでなく、おいしさにもフォーカスした研究をしてきた。この点に注目をしたのが、1804年から210年以上、日本の食文化を支え続け、2018年には10年先の未来への約束として『未来ビジョン宣言』を策定した食品メーカー、ミツカングループ。大学と企業という違いはあれど、おいしさと健康の限りない一致を目指して食を追究し続けるという共通項がきっかけとなり、ミツカングループからの声がけで産学連携のプロジェクトが立ち上がった。テーマになったのは、日本の食の未来。急速に多様化する日本の食文化や価値観を、若者の視点で捉え直すことで、これからの食のあり方をあらためて考えようというものだ。食科学科(※)の中でも、特に「おいしさ」を科学的に研究している飯田研究室を中心に、JWU社会連携科目を履修した他学科の学生も巻き込んでプロジェクトがスタートした。
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プロジェクトの流れ
01
若者層への調査から見えて
くる、おいしさへの心理的作用「にっぽん食」を考え直す前段として、飯田研究室の2名のゼミ生によって、若者たちが食に対してどのように考えているのかを知る調査が行われた。内容は、食全般と食事に関わる感情について。できるだけ幅広い意見を集めるため、食科学科(※)の学生、JWU社会連携科目を履修した他学科の学生に加え、他大学の学生にも協力を仰ぎ、合計240名にアンケートを実施した。「現在の若者に調査を行うことは、単なる意識調査でなく未来予測に繋がるんです」と飯田教授は言う。
収集データをマッピングして視覚的に表わす多重対応分析を行い、相関関係や結びつきを明らかにすることで見えてきたのは、現在の若者は特に、「誰かと一緒に食事をする共食」を強く求めているということ。コロナ禍によって黙食や孤食を強いられ、コミュニケーション手段としての食事に飢えていた背景も大いに関係しているが、一緒に食べることによってよりおいしさを感じたり、身近な人が作ってくれた料理をおいしいと感じたりするということも調査の中で浮かび上がった。この結果は、2023年3月にミツカングループと共同で開催した発表会にて、調査を行った学生によって発表された。
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02
これからの日本の食がどうある
べきかを、多角的に定義づける「にっぽん食」の定義づけをしていくため、JWU社会連携科目の中で、これまでの日本食の流れや健康的な側面で抱えている食の課題について学び、持続可能な食については外部講師に講演をしていただいたり、ミツカンの開発者に商品開発について話を聞いたり、さまざまな角度から食に関するインプットを行った。そして、それらの学びをふまえて、グループワークの中で意見を出し合い、「にっぽん食」に必要な要素をリストアップした。
まずは、未来の食を守るためにSDGsの観点から①自給率向上や食品ロス問題を解決するとともに簡便な調理法で作り続けられる食であること。また、②食べ続けられるおいしさであり食べ続けることで健康につながり、日本人が抱える栄養上の問題を解決できること。2022年度調査から③共食がもたらす食のコミュニケーションを通じて食の喜びや楽しみを感じられること。日本らしさを生かして④旬の食材を生かし四季を感じられること。⑤日本の調味料の良さを生かし、味覚をはぐくむおいしさであること。の5つの概念をまとめた。
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03
若者らしい自由な発想で具現化
される、「にっぽん食」の献立2022年のJWU社会連携科目の仕上げとして、4班に分かれて「にっぽん食」を具現化する献立案を考え、実際に調理実習を行った。食材や栄養について深く学び、調理の専門的な技術も持ち合わせている食科学科(※)の学生にとっては専門的な学びを生かす良い機会。しかし、「観点の異なる他学科の学生と一緒に取り組むことは、食科学科(※)の学生のみでは思いつかないような新鮮なアイデアに繋がったり、できるだけ労力をかけずに作る方法を考案したりと、予想外によい化学反応が起こっていた」と飯田先生は振り返る。
カオマンガイのチキンの代わりにカツオを炊き込む「カオマンガツオ」や、日本の食材と調味料でアレンジした「土鍋パエリア」など、さまざまな国の料理と日本食を掛け合わせたオリジナル料理も生まれた。「ミツカンの最初のぽん酢には醤油が入っていなかったという開発話をアイデアソースに考案された『ぽん酢ゼリー』には、とても驚きました。学生のみなさんの新鮮なアイデアに、私たちも刺激をいただきました」とミツカングループの担当者は言う。
これからの展望 TO THE NEXT
学外への発信を目指して
産学連携の
取り組みはまだまだ続く
2023年も引き続き、飯田研究室では「にっぽん食」に関する研究を行っている。テーマにしているのは、「簡便性」。若者層は夕飯であっても30分以内で作れるものしか調理しないというデータが存在するが、最新の調査ではその時間はさらに短くなり、20分以内でないと作らないという。現在は、効率化や作りやすさや持続可能性に注目し、若者の自炊離れを防ぐべく新たな献立開発にも取り組んでいる。ミツカングループと食科学科(※)による産学連携の取り組みは、今後も時間をかけて継続的に行っていく。