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PROJECT03

被服学科×家政経済学科×山梨ハタオリ産地

布の価値を「見える化」
することで、ファッションの
世界に
おける持続可能性の
課題へ
文理融合で挑む。

プロジェクトの背景

ファッション業界の
問題に、
当事者として
向き合う機会を

華やかに見えるファッション業界だが、持続可能性の観点から捉えると、多くの問題を抱えている。そのひとつが、若者層を中心に人気があるファストファッション。安価なアイテムを大量生産でスピーディーに消費者に届ける舞台裏では、原料となる綿花の栽培に多くの農薬が使われたり、染色工程での排水が水質汚染の重要な原因となったりしている。自然環境へのダメージだけでなく、強制労働や児童労働の人権問題との関わりも、昨今、ファッション業界の重要な課題の一つとしてとりあげられるようになった。
今回は、経済活動やマーケティングの観点で様々な社会的課題に向き合う家政経済学科の学生と、これからのファッション業界の一部を担う被服学科の学生とのコラボレーションとして、身近な衣生活の課題解決に「私事として」取り組もうとする文理融合のプロジェクトが立ち上がった。

  • プロジェクトの流れ

    01

    布を作った人や場所の情報を、
    使う人・着る人に届けたい

    両学科のプロジェクトメンバーの学生たちは、国際分業の進展の中で一時期衰退の危機に陥ったにもかかわらず、そこを乗り越え、今、「一番盛り上がっている織物産地」とメディアでも紹介されるようになった山梨県の富士吉田市へ。千年の歴史あるこのハタオリ産地で共に現地調査をおこなった。「家政経済学科と被服学科では同じものを見ても視点が異なります。その違いがお互い良い刺激になったと思います」と教員たちは言う。
    実際に工場を視察しての第一の発見は、布をつくるプロセスに関わる人たちの熱量とよい布を織りあげるための細やかな気配りや工夫の数々。

    そして第二の発見は消費者がこれらの生産者の熱量や工夫を知る機会がないことへの気づき。通常、布素材は商社が仕入れ、その後にアパレルブランドがそれを買ってアイテムに展開するため、生産者は自社の布が最終的にどこのブランドのどんな服になったのかを、直接知らされないし、それらの服の生産者であることを名乗ることができない。ましてや消費者はどこでだれによってどんな思いで織られた布なのかを知りようがない。
    現地での産地の方々とのディスカッションの会では、学生たちからは、布を作る人と消費者をつなぐ方法として、消費者が手にとる商品に「物語」をのせて売ることと、布の組成だけでなく、生産者の思いや工場で感じたワクワク感まで伝えられるような新しい発想の「スワッチブック」のようなものをつくりたいという提案が出された。

  • 02

    布の価値を見える化するために、
    布を測り、数値化するところから

    自然科学的な分析や考察を得意とする被服学科の学生たち。布の物理的な特性を計測し、富士吉田の布の魅力を数値化してみるところからアクションスタート。データ化することの意図としては、昨今SDGsの観点から世界的に取り入れられるようになった3D技術によるアパレル設計への対応という観点もある。今までは手触りなど感性で理解していたものをデータ化することで、3Dによるデジタルスワッチ(生地見本)を作成することも可能となる。そのことにより国境を超えて様々なシーンで使われる可能性が広がり、より求められることでハタオリという産業の存続に繋がるかもしれない、という期待感もあった。サンプルは、富士吉田のハタオリ工場4社から取り寄せた100種類ほどの布織物。中には複雑な紋織物、カットドビーやカットジャカードなど複雑な組織が含まれるため、通常の測定方法では計測がうまくいかないケースもあり、苦戦しながらも時間をかけて行った。

  • 03

    価値を伝えるために、どのような
    形で表現するのかという壁

    データを取るだけでは、生産者と作り手や着る人を繋ぐことには至らないため、生地見本とは異なる形で布や生産者のことを伝えられる冊子形式にまとめることにした。しかし、どんなふうに表現していくかに学生たちは悩んだ。「被服学科の学生は布を深く分析するプロセスには慣れていますが、一般消費者にまで分かりやすく伝えるということは慣れていない。自然科学的な視点と社会科学的な視点での意見交換ができたこの経験はよかったと思います」と武本先生は振り返る。

    測定によって見えた生地の特徴や産地の特徴など掲載したプロトタイプを持って、再び富士吉田を訪れた。それを生産者の方に見てもらったところ、布地に触れた時に感じる風合いを計測し、データ化するという取り組みにはとても興味を示してくれた。一方で、データ化するだけではなく、データと生地の感触を表す言葉を結び付けてまとめるなど、生活者の目線で表現することが必要、という課題も見えてきた。

これからの展望 TO THE NEXT

異なる視点での意見も
得ながら、伝える形

進化させていく

今後の動きとしては、現地視察を一緒に行った家政経済学科の学生に被服学科の学生の考えをプレゼンテーションして意見をもらったり、他大学の被服系の学科やファッション専門学校にも協力を得ながら、服作りをしている方の視点を加えたりして、冊子をさらにブラッシュアップしていく予定だ。このプロジェクトは、これからさらに両学科の得意分野を掛け合わせながら、布や技術の魅力を存分に伝え、生産者の想いを繋げるアウトプットを目指す。その先には、ファッション業界が抱える課題解決が見えている。

MESSAGE 教員からのメッセージアカデミックかつ多角的な学びで、卒業後に活きる力を 被服学科松梨久仁子教授 「理論」と「実践」という両軸で被服をアカデミックに学べるのが、本学の被服学科。衣類の材料や取り扱い、衣服の構成といった基本的な知識を修得するだけでなく、衛生、人間工学、運動生理学、その他にも、服飾美学や消費経済などの人文科学や社会科学など、さまざまな専門の教員が、サポートしていることも特徴と言えるでしょう。授業で徹底的に基礎力を身につけ、「衣料管理士資格(TA)」だけでなく、在学中に「繊維製品品質管理士(TES)」※ に合格する学生もいますし、学びの集大成を卒業論文にまとめることで分析力やプレゼン力を鍛えていきます。本学での多角的な学びを生かして、アパレル業界の産業構造を変えるような活躍をしてくれることを期待しています。※商品企画・商品仕入・品質の設定や判定を行うといった任務を遂行できるような素養を身につけた人に与えられる資格。アパレル業界の実務経験を経て受験する人が多い。広い視野と専門的な知識を融合させ、社会に羽ばたいてほしい 家政経済学科 額田春華准教授 ファッション業界のさまざまな問題が浮き彫りになっている昨今、この産業を変えていくためには、異なる知を繋ぐ大きな視野と専門的な知識の両方を併せ持ち、構造に潜む問題の穴に気づくことができる人材が必要です。このプロジェクトのように、普段とは異なる視点も持ちながらさまざまな課題に取り組むことで、ファッション業界の専門職に加え、身近な生活の問題構造を変えていく社会起業家のような人材を育てることにも取り組んでいきたいと考えています。※2023年9月取材当時の情報ですプロジェクトに参加している学生の声■同じ場所で同じものを見ているのに、学科によって全然着眼点が違うことがわかり面白かった。・工場見学時、被服学科の人は製造工程などの深い知識に基づいた質問ができていて、さすが!と思った。・学科を越えた学生同士の学び合いが新鮮だった。(家政経済学科学生)■家政経済学科の人のプレゼンはストーリー性があって自分たちにはないものだった。・今後もお互いの知見を活かしあいながら、プロジェクトを発展させていけたら嬉しい。(被服学科学生) MESSAGE 教員からのメッセージアカデミックかつ多角的な学びで、卒業後に活きる力を 被服学科松梨久仁子教授 「理論」と「実践」という両軸で被服をアカデミックに学べるのが、本学の被服学科。衣類の材料や取り扱い、衣服の構成といった基本的な知識を修得するだけでなく、衛生、人間工学、運動生理学、その他にも、服飾美学や消費経済などの人文科学や社会科学など、さまざまな専門の教員が、サポートしていることも特徴と言えるでしょう。授業で徹底的に基礎力を身につけ、「衣料管理士資格(TA)」だけでなく、在学中に「繊維製品品質管理士(TES)」※ に合格する学生もいますし、学びの集大成を卒業論文にまとめることで分析力やプレゼン力を鍛えていきます。本学での多角的な学びを生かして、アパレル業界の産業構造を変えるような活躍をしてくれることを期待しています。※商品企画・商品仕入・品質の設定や判定を行うといった任務を遂行できるような素養を身につけた人に与えられる資格。アパレル業界の実務経験を経て受験する人が多い。広い視野と専門的な知識を融合させ、社会に羽ばたいてほしい 家政経済学科 額田春華准教授 ファッション業界のさまざまな問題が浮き彫りになっている昨今、この産業を変えていくためには、異なる知を繋ぐ大きな視野と専門的な知識の両方を併せ持ち、構造に潜む問題の穴に気づくことができる人材が必要です。このプロジェクトのように、普段とは異なる視点も持ちながらさまざまな課題に取り組むことで、ファッション業界の専門職に加え、身近な生活の問題構造を変えていく社会起業家のような人材を育てることにも取り組んでいきたいと考えています。※2023年9月取材当時の情報ですプロジェクトに参加している学生の声■同じ場所で同じものを見ているのに、学科によって全然着眼点が違うことがわかり面白かった。・工場見学時、被服学科の人は製造工程などの深い知識に基づいた質問ができていて、さすが!と思った。・学科を越えた学生同士の学び合いが新鮮だった。(家政経済学科学生)■家政経済学科の人のプレゼンはストーリー性があって自分たちにはないものだった。・今後もお互いの知見を活かしあいながら、プロジェクトを発展させていけたら嬉しい。(被服学科学生)