

■「千人茶会」の概要
■4作品の紹介と設計した学生の感想
■審査員を務めた先生方からのコメント
■審査委員長を務めた
隈先生の各作品への講評と総評

建築デザイン学部
ホームカミングデー
「千人茶会」
茶室展示
学生交流プログラム
2025年4月19日(土)、目白キャンパスでは創立記念式典とホームカミングデーが開催され、
これにあわせて、食科学部の開設を記念した「千人茶会」も行われました。泉プロムナードには、住居学科(現 建築デザイン学部)および建築デザイン研究科の学生が設計した茶室が並びました。これらは、2024年12月に実施された「千人茶会 茶室アイデアコンペティション」で上位入賞を果たした4作品で、実物の製作が実現したものです。




日本女子大学 建築デザイン学部
特別招聘教授 隈 研吾
東京大学工学部建築学科卒業後、同大学院工学研究科建築意匠専攻修士課程修了。大手設計事務所などに勤務した後、1990年に隈研吾建築都市設計事務所設立。慶應義塾大学教授、東京大学教授を経て、東京大学特別教授・名誉教授。国内外で多くの受賞実績があり、現在も50以上の国で建築プロジェクトが進行中。
千人茶会アイデアコンペティションレポートはこちら
千人茶会
茶室アイデアコンペティション
「千人茶会」の概要
初夏を思わせる陽気の中、ホームカミングデーには、多くの卒業生やそのご家族が訪れ、希望された約300名の来場者に、茶席および学生が設計した茶室でお茶が提供されました。茶会には茶道芳心会の木村宗慎先生をお招きし、先生によるお点前を披露いただいたほか、本学茶道部有志の学生も参加しました。木村先生がこの日のために選んでくださった茶器とともに、食科学部の飯田文子教授と食物学科(現食科学部)の学生有志が試飲を重ねてブレンドの上で命名したオリジナルの抹茶「新錦楓」と同学科の学生が考案し、株式会社虎屋が製造したオリジナルの茶菓子「祝華」が振る舞われ、かつて豊臣秀吉が催した「北野大茶湯」のイメージにぴったりの、華やかなひとときとなりました。


日が暮れて茶室がライトアップされると、日中とはまた異なる幻想的な雰囲気が会場を包みます。この頃には、海外での仕事を終えた建築デザイン学部特別招聘教授・隈研吾先生も駆けつけ、設計した学生一人ひとりに講評をいただきました。
4作品の紹介と先生方からのコメント ▼
その他の先生からのコメント
茶道芳心会
<木村宗慎先生より>
以前隈先生と、仕事の進め方について「連歌のようなプロジェクトに魅力を感じる」というお話をしたことがあります。誰かが“発句”を詠んだら、順に皆が“付句”を足していくことで一巻が巻き上がる、そんなプロジェクトのことです。今日は、建築デザイン学部の皆さんが考えた茶室と、食科学部の方々がそこで使われるものを考えて足して完成するという、まさに2学部の連歌が完成したのだと思います。学生さんたちが有機的につながり成功した素晴らしいイベントでした。

審査委員長を務めた隈先生による各作品への講評と総評
各作品への講評
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<invert>
この空間に3人の方が入って実際にお茶を立てたと聞き、画期的な茶室だと思いました。にじり口もこの現代的なデザインを生かしてうまくできています。花を生ける場所など、茶室が持つ装置性をあらかじめ入れ込めれば、さらに面白くなったと思います。
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<波紋>
すべて廃材を使ったということが興味深く、ペットボトルの耐圧やたわみ、入れる水の量など、緻密に考えている点も評価できます。音が鳴る効果は本人たちも想像していなかったそうですが、作ったからこその貴重な経験となったでしょう。
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<庵燈>
組み立てや解体がしやすい作りということですが、構造的にもよく工夫されています。製作段階で具体的に色味を検討し、ワーロンを差し込むのではなく麻紐を通す形に変更するなど、設計から形にする中でよりよい選択ができていると思います。
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<お茶的休憩所>
とてもきれいにできていますね。2つの面が嵌合しているからこそ強度が出ていて、置くだけでもグラグラしないなど、構造的にも興味深いと思います。昼間はこの中でも場所によって日当たりが変わったそうで、その空間変化も面白いと感じました。
イベント総評
先日のコンペで選んだ4作品が、このような高い完成度となるとは、嬉しい驚きでした。作るプロセスで発見することも、できあがってから分かることも、たくさんあったでしょう。作りながら学ぶことがあり、できた後にも学べて、そして人が使い始めるとまた別の学びが出てくるところに、建築のおもしろさがあります。こういう経験は一生心に残ります。
茶室というテーマも良かったのだと改めて思いました。茶室には、建築空間としてまず空間性と構造性があり、さらに動作性や装置性も備えています。今日も話に出ましたが、どこににじり口を作って人が動き、花や掛け軸をどのように飾るか、といったことです。茶室に限らず、どんな建築でも、空間性、構造性、動作性、装置性は重なり合っているものですが、茶室はとくにそれが分かりやすいわけです。小さい規模でその重なりを勉強したことも、将来に生きる経験でしょう。
今回は日本女子大学の実力を感じました。日本を代表する茶人・木村宗慎先生にもお越しいただいて、皆さんの茶室でお茶を立てていただいたというのも素晴らしい経験です。皆さんの働きに、改めて「ご苦労様」と言いたいです。

4作品の紹介と設計した学生の感想
<Iさん>
茶室における、人のつながりや場の空気など目に見えない要素を視覚化するコンセプトで設計。通常は茶室に存在する壁や柱をなくし、点前をする人と客人の意識や想像力が持つエネルギーをパイプで表現しています。パイプはアルミ製で、製作時には設計通りの傾きを作るために学生が自ら埼玉県の工場に赴きました。特徴的なデザインがオブジェのようにも見えますが、茶器や所作と組み合わさると、ぐっと現代的茶室の印象が強くなりました。
<MさんとSさん>
ペットボトルやコロナ感染症対策で使われたアクリル板など、学内の廃材を活用した作品。中央の座る場所は水を入れたペットボトルを横に並べてアクリル板と釣り糸で固定し、吊るしたペットボトルでカーテンを作っています。カーテンは絡まりを防ぐため一番下に水を入れ、吊るす枠は木にワイヤーで固定しました。風に揺れるペットボトルとそのぶつかる音が、他の静的な作品と対比される「動」の要素を生み出しています。
私たちはほとんどの部分を自分たちで作りました。当初の提案では波紋をイメージして円形にする予定でしたが製作上難しく、四角に変更し、製作しながら試行錯誤していきました。2,000本のペットボトルを集めるのも大変でしたが、学内のみなさんの協力で完成できました。
カーテンの枠をワイヤーで固定する高所の作業は、大工さんに手伝っていただきました。設計段階では「どこかの木に結びつけよう」くらいに思っていましたが、たわまないで安定できる高さや場所を決めるのは予想以上に困難でコンピューターで細かく計算しました。実際に形にすることの難しさがよくわかりました。
影や光の反射をおもしろがってくれる人が多く、私たちも予想外で楽しかったです。自分たちで製作まで行ったことで計画性や安全性の考慮など、考えが足りていなかったところもよく理解できました。今後も設計から実寸大の製作まで行う経験をしたいと思います。
「動いていて見飽きないね」と感想をいただいて嬉しかったです。今回学内のいろいろな人から協力をいただいて、人との繋がりの大切さを知り、設計以外の部分でも多くを学べました。この学びを大切にしていきたいです。
<KさんとTさん>
江戸時代から間接照明として用いられた「行燈(あんどん)」に「庵」の文字を入れ、人の集まる場をコンセプトとした作品。壁を八面にして2畳の空間に広がりを持たせ、包まれているような安心感を作っています。茶道口を大きく開き見学もしやすく作り、茶室らしく低い体勢で入るにじり口も印象的です。障子部分には和紙と樹脂を組み合わせた素材・ワーロンを使い、紙管を3Dプリンタで出力したジョイントで接合させています。
模型を作るのと実際に建てるのとではスケール感が違いますし、光の入り具合を目で見られるのも嬉しいですね。製作では、構造部分を安定させ、強度を出すために微調整を繰り返した点が大変でした。業者の方とのやりとりでは、とても細かく情報が書かれている図面を拝見し、実務で必要なことも勉強できました。
一番よい塩梅で構造が保たれるように、業者の方と何度もお話ししました。とくに接合部は微妙なずれが出やすく、時間をかけて調整しました。素材の形や色味をイメージに近づけることにも苦心しました。考えたものが実際に建って、そこに人が入るという経験は、ふだんできないので、本当に貴重な機会でした。
これまで設計課題では、素材や仕上げのことまで突き詰めて考えていませんでしたが、将来、建設業界で活躍するためにも、今後はより具体的な設計案を作れるように努力していきたいです。
今回の経験は大きな自信になりました。この経験を生かして、多角的にものを見て、2Dの設計から実際に3Dで作る際に高い精度で想像力を働かせられるように、技術を磨いていきたいと思います。
<Iさん>
格式張った茶室というよりも、イベント来場者が自分の居場所を見つけて休憩することができる、気軽な茶室の提案。座るのはもちろん、もたれかかる、肘置きにするなど、さまざまな使い方が想定されています。面と面が繋がることで強度を出しており、地面に置かれただけでとても安定しています。子どもたちにはとくに人気があり、いろいろな高さの座面を試したり、芝生から這い上がる蟻を観察したりと、思い思いの時間を過ごしていました。
建築デザイン学部長
<佐藤克志教授より>
コンペの際には、雨が降って屋内での設置になっても映えるものという観点も大切に考えて審査をしましたが、今日はきれいに晴れて、どの作品も本来の魅力が出ていたのでよかったと思います。外部の方の協力のもと、設計したものが実際に形になってできあがり、学生も充実感を味わっているのではないでしょうか。図面に描くだけでなく、実際にものを作る過程でどんなことを考える必要があるのか、この体験から学んだことを今後に生かしてほしいと考えています。
食科学部
<飯田文子教授より>
コンペで審査したときには、どのように各案が実現されるのか、まったく想像がつきませんでした。今日、この目で見て、どの作品もきれいにできていて感心しています。コンパクトな大きさで、いろいろな場所に持っていくことができるところも面白いですね。衣食住を総合的に研究する家政学部から、それぞれの専門性を持った学部が独立していきますが、今後も、学部間の連携を通してより専門性を高め、学びが深められる試みを実施していきたいと思います。