家具をデザインする際、日本と海外のデザインでは、それぞれの体格なども考慮するのですか?
■これまでの経緯
■設計内容の説明[受賞学生Tさん・Kさん]
■家具製作におけるポイントの説明[山口木材工芸・山口氏]
■講評[特別招聘教授・妹島先生]/受賞学生のコメント
■家具設計の実例紹介[妹島先生]/質疑応答
■閉会の挨拶[佐藤克志学部長]
建築デザイン学部
百年館高層棟エントランス
家具のお披露目
および講評と講演会
学生交流プログラム
2026年2月16日(月)に、「百年館高層棟エントランス家具のお披露目および講評と講演会」が開催されました。2025年2月15日(土)に開催された「百年館高層棟エントランス デザインアイデアコンペティション」で1位に輝いたのが、Tさん・Kさんが提案した「潮流の場 ~滞留と対流~」。この作品が、建築デザイン学部の特別招聘教授・妹島和世先生や、山口木材工芸(株)の山口千絵子氏との打ち合わせや試作を経て実際に製作・納品され、百年館高層棟エントランスに設置されました。
日本女子大学 建築デザイン学部
特別招聘教授 妹島 和世
日本女子大学家政学部住居学科卒業後、同大学院家政学研究科住居学専攻修了。1987年に妹島和世建築設計事務所を設立し、1995年には西沢立衛氏とともにSANAAを設立。日本建築学会賞、ベネチアビエンナーレ国際建築展金獅子賞、プリツカー賞、芸術文化勲章オフィシエ、紫綬褒章など、SANAA名義も含めて受賞歴は多数。現在はミラノ工科大学教授、横浜国立大学大学院Y-GSA名誉教授、大阪芸術大学客員教授なども兼任する。東京都庭園美術館館長。
これまでの経緯
建築デザイン学部では、2025年2月15日に「百年館高層棟エントランスデザインアイデアコンペティション」を開催。1位に輝いた学部生のTさんとKさんは、実際の製作にも携わりました。同年4月には、 山口木材工芸(株)・山口氏との第1回目の打ち合わせで生産計画などを共有。6月には一部モックアップを作って第2回目の打ち合わせを行い、8月には妹島先生も参加して「中間報告およびアドバイス会」を実施。全体的にダンボールでモックアップを作り、製作する家具の種類と数量について検討と調整を行いました。10月の第3回目の打ち合わせでは、部材や色合いについて調整。11月の第4回目の打ち合わせで仕様が決定し、山口木材工芸での製作を経て、2月に納品されました。
設計内容の説明
「潮流の場 ~滞留と対流~」
受賞学生Tさん・Kさん
潮流の場とは、留まる人の滞在・滞留と、動く人の流れ・対流が交錯することで生まれる、常に変化し続ける空間です。このエントランスは人の動きに応じて表情を変え、静と動が共存する柔軟な空間として人々に新たな関係性をもたらします。私たちは、「滞留」と「対流」の2つを掛け合わせることで、人々が偶発的に出会い、交流できる場を作りたいと考えました。
「滞留」は居場所を作ります。点在する島に人が集まることで、場のリズムが生まれます。「対流」は流れを生み出します。人の動線と接続し、移動の流れに沿って人が引きこまれる空間を作ります。滞留と対流は相互に作用し合い、空間の境界が曖昧になり、新たな出会いや偶発的な交流が生まれます。私たちは、単なる通過点として認識されがちなエントランスが、短時間の滞在に適した空間となることを目指して家具を設計しました。具体的には「座る」「立つ」の2つの形をデザインしました。
「座る」滞在には、1名掛けのベンチを9個設置します。短時間の休憩や待ち合いのために、柱や壁に沿って配置することで人の留まるエリアが分散し、1人での作業も可能にします。一般的な1人用の椅子と比べてゆとりのある形状は、書物を広げた作業や一時的な荷物の置き場など、多様な用途を受け入れます。また、複数人掛けのベンチを2個設置します。エントランスの新たな溜まり場となり、長期的な滞在も促します。くの字に曲がった形状は、内側では賑やかに集う場、外側では個人的な利用の場と、2つの滞在形式をもたらします。一方、「立つ」滞在には、1000mmのハイテーブルを2個設置します。立ったままでの作業やカジュアルなミーティングを可能にし、情報収集や新たなラーニングコモンズの場としても機能します。これらの家具をエントランスに点在させ、多様な滞在の形を混在させることで利用方法の幅を広げ、学生の活動を活性化させます。
普段は学生たちがそれぞれの滞在目的に合わせて3つの家具を利用
イベント時は簡単にレイアウトを変更でき、ハイテーブルは飲食を提供するカウンターとしても活用
家具製作におけるポイントの説明

山口木材工芸・山口氏
私は住居学科を卒業して以来、特注家具の製作のほか、インテリアコーディネーターとして住宅の内装を手がけてきました。今回は学生のアイデアとデザインが活かされて本当によかったです。実際の製作では、学生が提案した基本デザインを守りながら、家具としての「安全性」と、学校の備品として長持ちする「耐久性」を重視しました。また、行事によってエントランスの使い方が変わるため、“あまり重くなく片付けがしやすいもの”、“エレベーターにも載せられて収納しやすいもの”というポイントも意識しました。
なお、2025年12月の段階で、複数人掛けベンチについてそれまでの計画より脚の構造を少々複雑にしました。イスは絶対に転ばないことが鉄則のため、構造的に体重80kgの人がどこに座っても傾かない強度になっています。また、テーブルの脚も当初の図面での90度の脚からコの字型に変更したほか、天板に反りが出るといけませんので、同じものを裏にも貼り、裏の見えない部分にはプレートを追加して強度を高めました。
講評
特別招聘教授・妹島先生
家具を作るということはとても難しく、無事完成してうれしく思います。学生たちには自分たちの思いと、安全性や耐久性、合理性について考えることのバランス感覚を身につけてほしいと考えました。そして、実際に設置されるのですから、「学生にとっていい機会だった」だけではなく、使う人が快適にそして楽しめるものを目指してほしいと思いました。安全性のために山口さんが脚の構造を変更したとのことですが、そこに学生も加わって議論すべきだったことは反省点でしょう。
「滞留と対流」という考え方は、この場所に相応しいと思います。“数が少ない”という意見もありますが、中央に家具を集中させたり、逆に中央を開けたりと、柔軟な使い方ができる点が、これらの家具のいいところです。今後は、家具を動かしてどういう空間が現れるか、並べ方のシミュレーションを重ねてほしいです。もし追加で家具を作れることになれば、この「潮流」と同じものを増やすというやり方もありますが、全く違うものを足すとどうなるのか考えてみるという展開もあると思います。これからいろいろなことを考えるベースとして、とてもいい場所ができたと思います。
受賞学生のコメント

住居学科4年・Tさん
当初の提案内容に沿うように細かくアドバイスをいただきながらブラッシュアップを進め、私たちが想像・想定していた家具づくりと空間づくりが実現したことが嬉しいですし、多くの方に支えていただいたことに感謝しています。強度などに関する技術的な部分や、製作実務のプロセスを学ぶ機会が得られ、大きな収穫になりました。例えば、天板のフチは既製品のように樹脂を巻くのではなく、デザインとして積層を見せたいという思いがあり、樹脂を巻かずに劣化を防ぐ処理方法をはじめ、意匠と実用性のバランスを考える大切さを実感できました。この経験をベースにして、卒業後は東京大学の大学院に進みます。今までよりも少し広く、マクロで都市的な視点で建築分野の研究に挑みます。
住居学科4年・Kさん
図面上や3Dソフトなどで考える課題では“夢物語”になってしまうこともありますが、今回は実際にモックアップをつくって検討し、どういう使い方ができて、設定した高さがどんな印象を与えるのかを体感できました。脚の形状や天板の厚さなどを決定していく際の注意点や手順も勉強になり、意匠的に“こうしたい”という思いと、“実務的にはこういう方法が必要”という内容のすり合わせ作業は、とても新鮮で面白く感じられました。卒業後は日本女子大学の大学院に進み、篠原研究室で研究を続けます。今回の企画は将来どう建築に携わっていくかを考える絶好の機会になりましたし、身についた知識や“感覚”は今後の新たな設計にも活かされると思います。
見学した学生のコメント
- 「今までのイスと違い、いろいろな方向から座れて、気軽に過ごせそうです」
- 「使い方を考えるだけで楽しいですし、配置方法を変えた際の滞留や対流の行動観察などにも参加してみたいです」
- 「1人掛けのイスに友人と2人で座ってもいいですし、交流できる場所になると感じます」
- 「座る方法を決めずに空間をより広く見られますし、外を見ながらの作業もできるのがすごくいいと思います」
家具設計の実例紹介
妹島先生
日本女子大学では、図書館や百二十年館、杏彩館でイスなどの家具を設計し、例えば杏彩館の2階では曲線的なソファーを制作しました。また、アメリカの「グレイス・ファームズ」では、屋外の広場に配置する家具製作も手掛けています。いずれのケースでも重視しているのは、人の集まり方や風景が変化していく家具をつくることです。その点、百年館のエントランスに設置された新たな家具も、人が空間と関わりながら、その時々にふさわしい雰囲気へと変化していくものになっていると思います。
質疑応答


家具や建具の高さなどは、自分の身体感覚で“このぐらいにしたい”と思っても、海外では結果的に大きくしたこともあります。海外の場合、日本なら設計ミスだと言われてしまうかもしれないほどの大きな扉があったり、体格の違いは、デザイン面で違いを生んでいると思います。

家具のデザイン力を磨く方法を教えてください。

家具を作る場合、家具のスケールやディテールについての専門的な訓練が必要です。今回は家具製作をされている山口さんが参画してくれたことで、一つずつディテールを詰めて家具として成立するものを作れました。学生と私だけで作ると、どこか“おもちゃ”のようなものができあがってしまう危惧もあったと思います。ただ、家具をどう並べるか、どう動かして使うかといったことは、建築の学びも活かされるはず。私が家具をデザインする際も、どう使われてどう風景として現れるかを意識します。

建築とは異なる家具ならではの面白さを教えてください。

家具には家具の面白さがあり、動かせることもその一つだと思います。それから建築より小さくて体に近づけて抱きかかえることもできます。家具でできることがあれば、建築でできることもあり、インタラクティブにつながる部分もあります。家具が建築を引き立てたり、建築とのさまざまな関係性を生みだせる点も家具の面白さです。

建築でも家具でも、素材や色はどう設定しているのですか?

昔は「妹島さんの建築は白い」とも言われたり、或いは、構造や骨組みにどちらかと言うと重きが置かれることが多かったように思います。今でも構造を尊重したいと思うところは連続していますが、同時に、仕上げにいろいろな材料を使いたいと思うようにもなってきました。その地域特有の技術や素材を使って作りたいと思っています。それでも白っぽいと言われたりすることがあるのですが、それは、光が全体に回るようにプランニングをしているからだと思います。私にとっては、建物内のあらゆるエリアに光が入り、人が自由に歩けることが重要です。

空間づくりでは、どのような意識で家具を捉えていますか?

置いてある家具に対して、人が積極的に関わり方、使い方を見つけていける家具、空間の方が楽しいと思います。使う人によって新たな使い方が発見され新しい空間が生み出されることがあります。例えば以前設計した「金沢21世紀美術館」では、建築は何も変わっていなくても、空間との対話と関わり方によって、いろいろな新しい体験が作られていて、大変素晴らしいと思います。

今後新しく挑戦したいことはありますか?

仕事をしていると常に新しいことを要求されますので日々挑戦です。
閉会の挨拶
佐藤克志学部長
学生がデザインしたものが恒久的にこの空間に設置されることになり、非常に感慨深いです。受賞学生2名にとっても、実装プロセスに関わることができたことは、貴重な経験となったと思います。また、私は行動観察調査を大学院の授業で課題にしていますので、家具の並べ方によって人の滞留と対流がどう変わるのか、とてもいい題材ができたと感じます。最後になりますが、1年がかりのプロジェクトとなり、いろいろとサポートいただいた妹島先生、山口様、どうもありがとうございました。
※2026年2月時点の内容です