学生には、答えではなくヒントを伝える。
南木さん
私たちは図書館課で働いています。小さな頃から司書になりたかったわけではなく、本学を卒業した後に日本女子大学で働きたいと考えて採用されたのが図書館課という経緯です。もちろん大学で司書課程を履修していたのですから、この仕事に関心はありました。
大学図書館の運営を担う本学の図書館課の仕事は、受入部門とサービス部門に分かれています。受入部門は、図書館に並べるための資料の購入、オンライン資料やデータベースの契約から、資料の検索や貸出を管理するためのシステムへの登録までを行う役割。購入する本の選定は、日本女子大学図書館図書資料収集方針に合わせて決めていくことに加え、シラバス掲載の参考図書や本学の教員からの購入希望も参考にしています。大学の図書館ですから、一般的な公共の図書館と比べ、各研究に役立つような専門書を多く購入することが特徴的です。高額で手に入りにくい学術書やオンライン資料も多いので、せっかくですからたくさんの学生に読んでほしいと思っています。
そして私たち二人が所属するサービス部門の主な仕事は、利用者が図書館資料を活用できるように支援することです。
中澤さん
サービス部門には私たち閲覧係と参考係がいます。閲覧係の仕事は購入した資料をどのように館内に配置し、どのように利用者に提供するのかを決め、利用を促すこと。ただ本の分類に合わせて棚に入れていくだけでなく、サイズや形状なども考えて、利用者が探しやすいように配置していきます。本は基本的には増えていく一方ですので、西生田にある保存書庫を活用しながら、現在88万冊以上を管理しています。その他、本の貸出・返却・予約などのカウンターサービス、利用案内、展示イベントなど、図書館の利用者に関する管理や運営も、私たちが担っている役割です。
参考係は学習・研究を支援する「レファレンス・サービス」を提供し、ガイダンスも行っています。その一環として、資料探しのサポートもしています。サービス部門は本の探し方がわからない、見つからない、などといったときに声をかけていただければ、お手伝いをします。館内資料だけでなく、データベースやオンライン資料もご案内しています。これにより、図書館の利用が初めての方でも安心して来ていただけるかと思います。
また館内には「JWUラーニング・コモンズさくら」というオープンスペースがあり、電子黒板や可動式の机、椅子を使いながら、声を出して議論ができます。ここでは本学の大学院生が「ラーニング・サポーター」として、学生の学修相談を受け付けていることも特徴です。立場や年齢が近い分、学生にとってはより相談しやすい相手なのではないでしょうか。
サービス部門とラーニング・サポーター、その両者が心がけているのは、絶対に学生には「答え」を教えないことです。例えば本を探している学生には、本の内容や概要はたとえ知っていても話さず、本の探し方を教えてあげる。話をする際も「このあたりの分類の本も内容が近いかもしれないよ」のようにヒントとして伝える。そうしてあくまでも学生の自ら学ぶ姿勢をサポートすることが、図書館としての最も大切な役割だと理解しています。
これから本学に入学される方は、今まで利用していた学校や地域の図書館とはちょっと違うものだと思ってもらえるのではないでしょうか。
日本女子大学の歴史の半分近い60年間、独立棟としての図書館は存在しなかった。
南木さん
本学の図書館には、固定式の書架に加え、資料を大量に収めることができる集密書架という移動式の書架があり、出版年の古い図書やバックナンバーを含めた雑誌が並べられ、多様な本を読んだり借りたりすることができます。なかでも特徴的なのは、女性の社会進出などを記したジェンダー平等に関する本が多く所蔵されていることです。理由を端的に言えば「女子大の図書館だから」なのですが、そこにはひと言では語れない日本女子大学そのものの歴史が詰まっています。
あからさまな女性差別が存在していた1900年前後。創立者の成瀬先生は、女性の高等教育に対する理解が十分でなかった日本で、1901年に本学を開校しました。その建学の精神を支えるべく、図書館における女性に関する資料の収集は始まっています。これは現在までずっと引き継がれてきているため、本学の図書館では「フェミニズム」という言葉がまだなかった時代に女性の人権について主張した『メアリ・ウルストンクラフトコレクション』(貴重書)をはじめ、近代のジェンダー平等の歴史をさまざまな角度から知ることができるようになっています。ただ開校当時、本学は大学であるにもかかわらず独立した図書館がありませんでした。創立後まもなく建てられた豊明図書館は階下を講堂として使用、戦後に整備された中央図書館は樟渓館の一部に図書閲覧室・事務室・書庫を設けておりました。成瀬先生は本学の創立時から、自ら考え、学び、行うことを示した教育方針「自学自動」を掲げていましたから、それを実現するのに最適な図書館の創設は悲願だったはずです。その思いを形にできたのが1964年。創立から約60年という途方もない年月をかけ、旧図書館はようやく独立棟として建設されました。2019年には現在の図書館へと生まれ変わり、見た目は大きく変わりましたが、成瀬先生の遺志は今もずっと受け継がれ続けています。図書館で学ぶことがあたり前ではなかった時代が長かったことを考えると、より現在の環境のありがたさを感じられますね。
学生が自分で操作できる電動式集密書架
中澤さん
もうひとつの特色として、4階にある「上代タノ平和文庫」も挙げさせてください。第6代学長の上代タノ先生の名前を冠した、世界平和に関する本に特化した所蔵スペースです。そもそも上代先生は、旧図書館の創設に尽力した人物です。本学卒業後にアメリカやイギリスの大学で研究生活を送り「これからは自らが学んだ欧米の大学のような図書館がないと大学レベルの研究はできない」と実感したことで、本学にそのような図書館を建てたいと思うようになったそうです。そして学長になる前には大学へ申し出てアメリカへ渡り大学行政を研究されたそうです。そのようにして自ら海外に出向くほど、国際情勢に高い関心を示す先生でした。世界各地で悲惨な戦争が行われてきた時代を生きてきたからこそ、日頃から強く意識していたのかもしれません。上代先生は当時、学生たちも戦争などの世界の現状を学び、平和をより深く考えるべきだと常々言っていたそうです。そこで自らの本の寄贈をきっかけに1971年、旧図書館の一角に上代タノ平和文庫が誕生しました。その運営は、上代タノ先生が創設した「図書館友の会」により行われてきましたが、同会の閉会後は、成瀬先生の建学の精神を引き継ぐ女性に関する資料と同様、私たち図書館課の職員一同が現在もその思いを引き継ぎ、女性と平和に関する図書の収集を継続しています。
「世界平和アピール七人委員会」の創設時(1955年)のメンバー7名のうち2名は、本学出身の上代タノ先生と平塚らいてう氏でした。学生の皆さんは、同じ大学に学ぶ後進として記憶の片隅にとどめ、図書館で視野を広げて深く学び、世界平和への希望の灯りを諦めずにともし続けてほしいと思います。
上代タノ平和文庫エリア
授業で出された課題をそのまま相談してきた学生もいました(笑)。
中澤さん
普段は資料探しの相談を受けて学生の対応をすることも多いので、その学生が少しでも前進できていることを確認できると、こちらとしてはうれしいですね。先ほども話した通り、こちらはあくまで聞き手です。学生は話していくうちに少しずつ考えがまとまっていきますから「ではこの本を借りていきます」と、自ら発言する瞬間が、私たちの仕事のゴールです。学生にとってはそこからがスタートですので、私たちは本当に小さなきっかけを与えているにすぎないのですが、何事も最初の一歩が肝心ですからね。そこだけは力になれていると自負しています。
南木さん
相談を受けた学生で印象に残っているのは、授業で出された課題をそのままこちらに出して「これ、どうすればいいでしょうか」と尋ねられたことです。さすがに少しは自分で考えてからきてほしいと思ったのが本音ですが(笑)。そのまま無下にするわけにもいきませんから、授業での印象に残っていることなどを少しずつ聞き取ることで、最終的に何冊か借りていくところまでたどり着くことができました。これは極端な例ではありますが、図書館は決して身構えてくる場所ではありません。わからないことがあれば私たちやラーニング・サポーターがいますから、学生には日頃から安心して利用してもらえればと思っています。
大学ではネット検索の学びが通用しない。だからこそ図書館がある。
中澤さん
大学の図書館に携わる者として一番の願いはやはり、たくさんの学生に利用してもらうことです。今はちょっとした調べ物ならネット検索で済ませられますから、大学に図書館なんて必要ないと感じる人がいても不思議ではありませんが、もちろん、そんなことはないのです。なぜなら、学生が取り組むのは「ちょっとした調べもの」ではなく、論文にも書けるレベルの「より高度で専門的な調べもの」だからです。ネット検索して出てくるような情報を学ぶのではなく、今ネット上にはない新しい知見や考え方をまとめていくのが、大学生本来の学びですよね。高校生まではある程度答えがある学習でしたから、ネット検索すればおおよその正解にたどり着けたでしょう。しかし大学は、正解のない問題に向き合うことも多い。そんなときに図書館が助けになります。専門書の存在はもちろん、似たような分類の周辺の本も自然と目に入りますから、ネット検索と比べて視野が広がりやすく、学びに深さと広さの両方をもたらすことができるのです。わからなければ相談もできますし、図書館は、学生が学ぶためにこれ以上ない環境と言っても過言ではないと思います。
南木さん
本学の図書館は「つながり」がひとつのコンセプトです。館内は壁が少なく、スロープや吹き抜けもあり、視界に本や人などのより多くの情報が入り込むようになっています。特に高校生まで「なるべく1人で集中したいから」と、受験勉強などで公共の図書館を利用していた人は、雰囲気の違いに驚くかもしれません。またこれまで本に親しんできた人も、同じように新鮮さを感じると思います。ここまで専門性の高い本が並んでいる場所は、大学以外ではなかなかありません。公共の図書館しかり、多くの書店も人気のある本を中心に用意する必要がありますから。それに、必ずしも本を借りたり学んだりという目的を持って訪れなくてもいい場所なのです。ただなんとなく本棚を見たり、他の学生を目で追ったりしているうちに、何かしらのインスピレーションを受けるかもしれません。本学の卒業生や文京区民(満18歳以上の社会人女性)の方も利用しているので、学内で最も多様性が感じられる場所とも言えそうです。ガラス張りなので、外の景色を眺めながらゆったり雑誌でも読んで過ごせば、気分転換だってできます。その点で図書館の「つながり」は、単なる知的交流だけでなく、利用者を新しい明日へとつなげてくれる意味も含んでいそうです。ここまで有意義で心地よく過ごせる場所が無料で利用できるのですから、学生なら利用しないともったいない、むしろ損をするくらいの感覚になる場所だと思います。本をたくさん借りた帰り道は少し重たく感じるかもしれませんが、図書館へはとにかく気軽に来てもらえたらうれしい限りです。
豊富な新刊雑誌展示架