わたしたちの希望の光は、まさに光の研究の先にある。

目に見えない光の世界を知り、世界の見え方が広がった。

光を使った通信や情報処理の研究に取り組んでいます。光がどのように情報を運び、伝えるのか。どうすれば、より遠くまで、より確実に届けられるのか。そして、光の形や性質を工夫すると、どこまで面白いことができるのか。そんなことを考え続けながら、ここまで来ました。私が光を扱う物理学の道へと進んだきっかけは2つあります。1つ目は高校生のときに学校で開かれた立花隆先生の光についての講演を聞いたことです。「私たちが見ている世界は、実はごく一部でしかない」という話が心に残りました。赤外線や紫外線など、目に見えない光が身のまわりにたくさん存在していることを知ったのです。自分が見ているものがすべてだと思っていたけれど、そうではない。世界の見え方が広がるような感覚があったのを覚えています。
2つ目は、当時の物理の先生が紹介してくれた、朝永振一郎先生の「光子の裁判」という本との出会い。「光が波でもあり粒でもある」という不思議な性質を、高校生にもわかる言葉で書いてあり、それを読んで私は「光って、なんて奥が深いんだ」「もっと光のことを知りたい」と思うようになりました。
そのような流れで進学先は光を研究できる大学を探し、たまたま日本女子大学に入学しました。その時点では、研究者や大学の教員などといった具体的な将来像があったわけではありません。ただ淡々と学び続ける日々でしたが、大学3年生の学園祭で発表したホログラフィー、いわゆるホログラムを作る実験には特に夢中になりました。朝から晩まで何度もやり直しながら、暗室にこもって友人と二人で実験を繰り返す日々。少しでも揺れると失敗するので実験室の環境にも気を使わなければいけません。「なんでうまくいかないんだろう」と文句を言いながら、ひたすら手を動かしていました。私はずっと朝が苦手だったのですが、このときだけは朝7時には研究を始めるような毎日でした。そんな熱量で取り組めるほどの面白さを感じたことから、よりこの領域の研究に没頭していきます。ちょうどこの頃、光を使って情報処理をする光コンピューティングが世界的にブームになっており、そんなことも私の興味を引いた一因になっています。卒業後は他大学の大学院に進学。同大学院で修士課程、博士課程、助手として8年ほど学び、縁あって本学に戻ってくることになりました。

紙幣でよく見るホログラムは、偽造防止に役立つだけではありません。

光通信は、インターネットで大容量かつ高速に情報をやりとりするための重要な通信手段です。近年は、動画配信やクラウドサービスの普及により、世界中で扱われているデータ量が爆発的に増えています。そのため、これまで以上に大容量で高速な通信が求められています。
現在の光ファイバー通信では、光で情報を運んでいても、通信経路を切り替えるときには一度光を電気に変換し、電気回路で振り分けてから、再び光に戻すという方法が使われています。しかし、この光→電気→光という変換には時間がかかり、通信速度の向上を妨げる原因になります。
そこで注目されているのが、光を電気に変換せず、光のまま経路を切り替える技術です。その実現方法の一つが、私が大学時代に夢中になった「ホログラム」の活用です。ホログラムは、紙幣やクレジットカードにあるキラキラした部分に使われており、見る角度によって見え方が変わります。これは、光の進み方を細かくコントロールできる性質を持っているためです。この性質を利用すると、これまで電気回路が行っていた光の振り分けを、ホログラムによって直接行うことができ、通信のタイムロスを減らすことが可能になります。
ホログラムが光の方向を変えたり、複数の情報を記録できるのは、「光の波面」と呼ばれる光の位相分布を制御しているからです。光の波面を制御するという考え方は、現在の光無線通信の研究でも重要な役割を果たしています。
光無線通信とは、光を使って空間中で情報を伝える技術です。しかし、雨や空気のゆらぎ(乱流)などによって光の状態が乱れ、通信品質が低下するという課題があります。そこで私は、光のビームの種類を工夫することで、より安定して遠くまで光を届ける研究を行っています。具体的には、一般的なレーザーのような円形のビームではなく、「ラゲール・ガウシアンビーム」と呼ばれるドーナツ状のビームを使います。このビームは、乱れの影響を受けにくく、安定して進みやすいという特徴があります。これにより、悪天候の環境でも、より安定した高速通信が可能になります。
このような研究は、2030年代の実用化をめざしている次世代通信規格「6G」の実現にも貢献します。6Gでは、地上だけでなく、海の中や宇宙空間まで含めた通信が想定されています。特に海の中では、携帯電話で使われている電波は弱くなりやすいため、通信が難しいという問題があります。その解決策として、光無線通信が注目されています。海中で高速通信が可能になれば、海底資源の調査や開発にも役立ちます。また、宇宙との通信でも、まっすぐ進む光の性質を活かした高速通信が期待されています。
このように、光無線通信は、海・陸・空、そして宇宙までをつなぐ未来の通信技術です。社会に大きな影響を与える可能性を持つ研究ですが、私にとっての原点は、今でも変わらず「光って面白い」という純粋な好奇心です。この好奇心が、新しい技術を生み出す原動力になっています。

宇宙で発電し、地球でその電力を使う。そんな未来が来るかも!?

近年力を入れて研究しているもうひとつの分野が、光無線給電です。これは、ケーブルを使わずに、離れた場所から光によって機器へ電力を送る技術です。
最近では、スマートフォンや電動歯ブラシを充電台の上に置くだけで充電できる製品を見かけますが、これは数cm程度の近距離での無線給電です。一方で、私が目指しているのは、数mから数kmといった長距離で電力を送ることができる無線給電です。無線給電にはいくつかの方式がありますが、長距離伝送が可能な方式の一つとして、光無線給電が注目されています。
この技術の応用例の一つがドローンです。現在、一般的なドローンはバッテリーで動作しており、飛行時間は20分程度に限られています。そのため、長時間の連続運用が難しく、作業効率の制約となっています。もし地上から光で電力を送り続けることができれば、ドローンを長時間飛行させることが可能になります。
さらに、海底探査ロボットや宇宙で活動する機器など、ケーブルを接続することが難しい環境でも、光無線給電は重要な役割を果たします。ケーブルを使わずに電力を供給できるようになれば、これまで制約の多かった環境での活動が可能になり、さまざまな分野への応用が期待されています。
また、宇宙空間で太陽光発電を行い、そのエネルギーを光無線給電によって地上へ送るという、次世代のエネルギー技術の研究も進められています。これは、将来の新しいエネルギー供給方法として注目されています。
SDGsなどの社会貢献を特別に意識するというよりも、私にとっては目の前の研究真剣に向き合うことの積み重ねが、結果として社会の役に立つことにつながると考えています。

屋外光無線

修士まで進んだ学生は全員、国際会議で英語を使って発表します。

研究室に入ってくる学生の多くは、最初から専門的な知識を持っているわけではありません。数式が苦手な学生もいますし、プログラミングに不安を感じている学生もいます。でもそれは決して特別なことではありません。最初は「わからない」状態から始まるのが当たり前であり、全員がそこから一歩ずつ成長していきます。
研究を進める中では、思うようにいかないことも数多くあります。そのようなときには、一人で抱え込むのではなく、私や研究室の仲間と相談しながら、どうすれば解決できるかを一緒に考えていきます。研究室は、課題を乗り越えるために仲間と協力する場所でもあります。私は、研究の成果だけでなく、課題に向き合い、解決へ向かうプロセスを学んでもらうことを大切にしています。
また、私の研究室で博士前期課程に進学した学生には、全員が国際会議での発表に挑戦します。国際会議は、世界中の研究者が集まり、最先端の研究成果を発表する場です。最初は英語での発表に不安を感じる学生も多いですが、準備を重ねることで、これまで全員が発表をやり遂げてきました。
発表に向けた準備では、研究の内容を深めるだけでなく、資料の作り方や伝え方、言葉の選び方についても一緒に考えていきます。自分の研究を「どのように伝えれば相手に伝わるのか」を意識することで、学生たちは研究への理解をさらに深め、自信を身につけていきます。そのようにして成長していく学生の姿を間近で見ることは、私にとって大きな喜びであり、研究と教育に取り組む原動力となっています。

東京科学大学(旧:東工大)の宮本研究室と展示会に参加している様子

「がんばった」は、第三者からそう見えることに意味がある。

研究室に所属する学生たちは、卒業研究や国際会議での発表など日々様々な挑戦に向き合っています。決して楽な道のりではありませんが、みんな本当によく頑張っています。
学部3年生までの「教えてもらう学び」から、自ら問いを立て、自ら切り拓いていく学びへと変わるとき、多くの学生が戸惑いを感じます。しかし、社会に出れば、自分で課題を見つけ、解決していくことの連続です。大学での研究は、その第一歩でもあります。
私は、学生たちに自己肯定感を持って挑戦してほしいと願っています。同時に、自分だけでなく、第三者から見ても「よくやり切った」と言える経験をしてほしいとも思っています。大学は、社会に出る前の最後の教育機関です。だからこそ、目の前の課題に本気で向き合い、やり切り、そして周囲から評価される経験を積んで卒業してほしいと考えています。
大学は、答えを教えてもらう場所ではなく、答えをどう考えるかを身につける場所です。自分の頭で考えて、自分の言葉で説明する力は、どんな進路を選んでも必ず支えになります。もし大学で何かひとつ、夢中になれるものに出会えたなら、それを大切にしてください。その経験は、必ず将来の力になります。
私自身、高校生のときから研究者を目指していたわけではありません。ただ光が面白いと感じ、その気持ちのままに研究を続けてきました。大学でホログラフィーに夢中になったこと、暗室で実験に没頭した時間、思うようにいかなくて悩んだ日々―――そうした一つひとつの経験が、今の自分につながっています。一生懸命取り組んだ経験は、たとえ将来進む分野が変わったとしても、必ず自分の力になります。大学で出会う挑戦や夢中になれる時間が、やがて皆さんの未来につながっていくことを願っています。

主なSDGsへの取り組み

  • 7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに

    海や宇宙なども含めた、これまで届けることが困難だった場所へ光で給電することをめざす研究によって、宇宙で太陽光発電した電力を地上で使い、環境負荷の大きな発電所の数を抑えるなど、環境に配慮したエネルギー活用ができる未来を実現しようとしている。

  • 9.産業と技術革新の基盤をつくろう

    「ラゲール・ガウシアンビーム」の活用など、より安定して通信できる光を開発する研究を通して、海中でも宇宙でも安定して通信できる次世代の通信規格6Gの実用化に寄与している。

  • 14.海の豊かさを守ろう

    海中でも安定して通信や給電ができる未来が実現すれば、海中の観測や調査で使用する設備類やケーブルの一部を減らすことが可能になります。また、ケーブルの設置が難しい場所や一時的な観測においても通信や給電が可能となり、海洋環境への負荷を抑えながら観測や調査を行うことにつながります。

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