地図を見れば、社会課題の解決策が見えてくる。

データを基に考えて行動する、それが地理です。

私の専門領域は教育学と地理で、みなさんお馴染みの小学校、中学校の地図帳の作成にも携わっています。主に教員をめざす学生のため、地理を中心とした社会科に関する授業やフィールドワークなどを行っています。また、近年は注目されているGIS(地理情報システム)の活用に取り組んでいます。GISとは、コンピュータ上で見る地図のようなもので、そこに標高や土地利用、人口、年齢といった各種統計データなどを重ねていくことで、さまざまな分析を行うのです。

学生には常々、自ら考え、行動する力を身につけてほしいと伝えています。地理の学習は、各地域の実態を知ることだけが重要なのではありません。地図から得られる情報に加え、その地域の歴史や産業、人々の暮らしを知ったからこそ、それを「どう社会課題の解決に役立てることができるか」を考えることが大切なのです。昨今は、教育界全体でアクティブラーニングの重要性が叫ばれています。たとえば今度、11月に北海道のとある中学校で出前授業を行うのですが、そこでは地理情報から地元観光業の危機を伝えたうえで「どうすればより多くの人に来てもらえるようになるか」を、中学生同士で話し合ってもらうつもりです。それを受けて、今度は教育学科の学生がどう考えるか、そして私も考える……。このサイクルがあることで、多くの人の考える力、行動する力を育てられると考えています。

多文化共生のカギは、アメリカの地図にある。

私が海外の研究対象地域として最も時間を割いているのはアメリカです。大規模農業や先端産業など、これからの日本が参考にすべき事例が多数存在しています。なかでも、移民国家として文化的に違う人々がどのように棲み分けを進めていったのかなど、多文化共生について非常に参考になると考えています。人的グローバル化、多様化は、日本だけでなく世界中で起きており、多文化共生は今地理を学ぶ人たちのキーワードのひとつなのです。

もう少し身近な地域で考えてみましょう。東京都の豊島区を例にすると、池袋駅周辺などに中国人が多く住んでいることがわかります。そうなると、教育に携わる者としてはたとえば看板の中国語対応を求めるなど、地域に即した行動が必要になってくると考えます。さらに理解を深めるため、東京に住む中国人と一緒にフィールドワークを行うと、ゴミ捨てのルールがわからずに困っているといった課題が見つかりました。いつどこに何ゴミが捨てられるか、その案内を文化的背景を踏まえて中国語をはじめとする多言語で周知する必要があることがわかったのです。このように、地理の学習は生活者の課題解決に直結していると言えるでしょう。

地図は大事だが、百聞は一見にしかず!

地理を学ぶうえでは、自分の目で現場を見ることも大切です。地図やGISを活用して考えることはもちろん大切なのですが、それでは不十分。文字どおり「机上の空論」にならないためなのはもちろん、地図→現場→地図……と繰り返していくことが、最も確実に学びや理解を深められる方法であるためです。

近頃は再生可能エネルギーが注目されており、本科でもよく授業の題材に取り上げています。発電所に関して言えば、主に風力、太陽光、地熱などがあり、これらは設置する場所の特性により向き不向きがあるため、事前の地理的な分析が不可欠なのです。それこそGISで、地形、日照時間、風の強さなどを調査します。この学習の延長として、最近個人的に大分の日本最大の地熱発電所を見学に行く機会がありました。そこで驚いたのは、地熱発電はマグマの熱による高温の蒸気でタービンを回して発電しているという事実です。「地熱」の字面から、つい温泉の蒸気のような熱を利用するとばかり思い込んでいました。現場が大切であると痛感させられましたし、より精度の高い学習内容を提供できると、前向きにとらえています。

防災の問題は、地理の問題。

もうひとつGISの活用例としてわかりやすいのが、防災です。地域の標高や河川の氾濫データなどを分析することで、水害時に「どこに逃げたらいいのか」がわかるようになります。2021年は、ゼミの学生、産学官の連携として、学校、地図作成会社の(株)ゼンリンと協力して、埼玉県春日部市の小学校で6月、9月、10月の3回、出前授業を行いました。実際に、ゼミの学生が防災教育をテーマに卒論を進めているので、詳細を話してもらいましょう。

学生「実は、春日部市は場所によって数年に1度ほど、膝下まで冠水するくらいの水害が起きている地域なのです。もちろん子どもたちはそんなことを知らないので、話すと一様に『へぇ~』と驚かれます。実際に地図を見せると『私の家、標高が低いから恐い!』など、自ら地図を読み取る子もいて、防災意識を高められていると感じます。また、この活動を通じて、今自分が住んでいる地域の道を覚えておくことは大切だと思いました。今はスマホで何でも調べられるので、道を覚えなくなった人も多いかもしれません。でも、災害時は1分1秒を争いますし、スマホがつながらない可能性もあります。そのためにも、まずは地域自体に興味をもち、普段から周辺地理をよく把握しておくことも、防災に役立つと感じました」

春日部市立幸松小学校で行われた防災の出前授業
(2021年10月4日撮影)

地図を活用したプログラミングに取り組む小学生たち
(2021年10月4日撮影)

地球規模で考えよう、足元から行動しよう。

これから求められるのは、世界中の膨大な地理情報をどうつなぎ合わせ、どう活用していくかに対する答えです。そこで参考にしたいのが、環境問題を語るうえで常套句となっている「Think Globally, Act Locally(地球規模で考えよう、足元から行動しよう)」だと思っています。もはや、自分の住む地域だけを考えていればいい時代ではなくなりました。地元にはこんな課題がある→世界ではどうしているのだろう→この手法が地元に活用できそうだ……こうしてグローバルに考えることで、より自分の住む地域に貢献することができます。

世界規模で物事を考えるとき、地理は非常に便利なツールのひとつです。言ってしまえば、世界中のさまざまな地域への貢献に直結する学びだと思います。SDGsで示されているように今この世界には多くの課題が、そして未来への可能性が存在しています。地元地域に貢献する人はもちろん、海外も含めて世界規模の課題に挑戦していけるような人を育てていくのが、地理を教えている私の使命だと感じています。

主なSDGsへの取り組み

  • 4.質の高い教育をみんなに

    近年注目されているアクティブラーニングの重要性を理解した教員を育成することで、将来的な質の高い教育提供に貢献している

  • 7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに

    地図のデータからその土地にふさわしい再生可能エネルギーを見出すなど、地理的アプローチによりエネルギーを考えることの大切さを伝えている

  • 11.住み続けられるまちづくりを

    多文化共生や防災など、地理の観点から持続可能な地域にするために活動している

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