「国・都」と「学生・教職員・PTA」のそれぞれの要望を尊重しつつ、省エネを促進しています!
磯田さん
施設課はその名の通り、大学に関係する施設を管理しています。学生や教職員など大学を利用する人が日々心地よく過ごせることを目的に、建物の修繕や改築、机や椅子といった備品購入などに取り組んでいます。加えて、電気や水道などの光熱費の管理、理系の研究室で使用される薬品の管理なども、私たちの業務範囲になります。さらには附属の学校と園の警備や清掃、軽井沢の寮や各地で借りている土地の資産管理など、大学の外にあるものも含めて幅広く担当しています。
学生や教職員、PTAなどからの施設に対する要望に応えることも、私たちの大切な仕事の1つです。例えば近年だと、学生からコンセントやWi-Fiを増やしてほしいとの要望を受け、増設しています。スマホのような充電式の家電やインターネットに接続して利用するサービスは年々増えていますので、時代に合わせた施設のアップデートも大切なことだと認識しています。
私たちの大きなミッションは、ずばり省エネです。文部科学省からの要請があることに加えて、最近は東京都が2030年までに温室効果ガス排出量の50%削減をめざす「カーボンハーフ」を表明しています。そのため現在は省エネにより一層力を入れなければいけない状況です。ただあまりに省エネを意識しすぎるのもよくありません。例えば、夏の冷房の温度を高く設定しすぎると、学生から「もう少し冷房をきかせてほしい」との要望が増えてしまいます。それに昨今の夏は気温が非常に高く、熱中症などを防ぐことも考えた温度設定が必要です。施設としての快適性を損なってしまったら、本末転倒ですから。国の要望や学生の健康などを踏まえたうえで総合的に考え、うまくバランスをとりながら進めていくことが求められます。大変ではありますが、私たちの腕の見せ所なのです。
野稲さん
2024年に関しては、本学の電力は一部、化石燃料を使用しないクリーンなものを購入しています。この電力は、温室効果ガス排出量が実質ゼロというもので、地球環境に大きく貢献できると考えています。購入を一部としているのは、費用との兼ね合いです。クリーンな電力は比較的高価ですから、すべての電力をまかなうには費用がかかりすぎます。費用対効果を考えながら、どの程度がベストか、常に考えながら判断しているのです。このあたりもバランスですね。

インタビューに答えてくれた磯田さん
オールジェンダートイレは、行き止まりを作らないようにした。
磯田さん
本学では、2024年からトランスジェンダー学生(女性)を受け入れています。それに伴い、百年館1階にオールジェンダートイレを新設しました。もちろん学内では初めてですし、全国的にも前例が少ないので、設計の段階から何度も話し合いながら進めていきました。ポイントは大きく2点で、1点目は出入り口が2箇所あり、通り抜けられる構造になっていることです。事前調査を重ねると、オールジェンダートイレを利用したことがある方から「行き止まりがあると不安」との声が聞かれました。これは、通常のトイレの構造からすると思いもよらない意見です。ただよくよく考えると、たしかに、何かの際に逃げ場がないとなると、恐怖を感じてしまっても無理はありません。そこで、プライバシーに配慮しながらも、見通しのよさも兼ね備えた通り抜けられる設計としました。2点目は近くに女性用と男性用それぞれのトイレがあり、好きなトイレを選択して使えるようにしたことです。どれだけ設計を工夫したところで、やはりオールジェンダートイレを利用したくない人は一定数いるため、使いたい人は使えて、使いたくない人は使わなくて済むような立地に設置したのです。直近でその利用率を調べてみると、オールジェンダートイレと女性用トイレはほぼ同等で、多くの人が利用したいトイレを利用できている状況だと考えられます。
「これからのトイレのあり方に一石を投じた」とのことで、このオールジェンダートイレは2024年度のグッドデザイン賞を受賞しました。現在はさまざまな企業や団体の視察を受け入れており、多くの施設の参考になれば嬉しく思います。学生にとっては、ジェンダー平等の問題を考える1つのきっかけになってくれることを期待しています。


グッドデザイン賞を獲得したオールジェンダートイレ
コロナ対策のアクリルパネルを、テーブルや椅子の素材に。
河口さん
本学には「SDGs Oasis」という場所があるのですが、このスペースの作成を行いました。
経緯としては数年前から、学生の滞在場所に偏りがあることを課として課題に掲げていました。特に八十年館の地下1階の学生スペースは利用率が低かったので、ここを改修する計画を立ち上げたのです。しかし、ただ居心地をよくするだけでは学生の注目度は上がりません。そこでこの場所に「SDGsの発信拠点」というコンセプトを設けました。すでに本学でも多様な形で取り組んでいる実績があり、今の学生にとって非常に関心の高いテーマです。具体的には、例えば廃棄物を再利用した素材で作られたテーブルや椅子を設置しました。端にステッカーを貼り、環境配慮製品であることをさりげなく示しています。実は、コロナ対策で導入したアクリルパネルの処分に困っていたのですが、それもここで再利用素材として使用されています。また、まさにこの取材もそうなのですが、本学のSDGsへの取り組みを紹介するウェブサイトの記事をポスターにし、壁面に掲示しています。ちなみに、学生により愛着を感じていただける場所となるよう、スペースの名称は学生から公募して決定したものです。利用率も上々で、直近の学生アンケートの結果では、大学内の好きな場所ランキングで2位を獲得することができました。実際に学生からは「資源の再利用に興味があるので、こういうものがもっと広まってほしい」という嬉しい意見もいただいています。SDGs Oasisを利用する方には、SDGsに対してより関心を持っていただけたらと思います。
磯田さん
かねてより、学生がSDGsに興味があることは感じていました。学生から「ペットボトルゴミ削減のために給水スタンドを設置してほしい」という要望があったことも、その1つの表れだと思います。これを受け、2023年度から学内9箇所に給水スタンドを設けました。もちろん設置場所の1つにはSDGs Oasisが含まれています。最も多い使われ方は、空のマイボトルを持参して、朝イチで給水するというものだそうです。たしかに、それなら朝の通学時も重たくないので便利ですよね。余計なゴミも減らせて一石二鳥です。


SDGsオアシスに設置されたテーブルや椅子
賞味期限間近でも、リメイクすれば美味しく食べられる!
松田さん
SDGs Oasisで年に1度「フードドライブ」というイベントを開催しています。本学では大量の防災備蓄品を管理していて、特に飲食物に関しては、約6,000名が3日間不自由しない分の食料品と水を備蓄しています。当然、賞味期限が切れそうなものは、新しいものと入れ替える必要があります。ただ、交換された食料品をそのまま処分するのは、もったいないですよね。そこで、フードロス問題を研究している本学家政経済学科の小林教授と、化学生命科学科教授の宮崎副学長の協力を得てイベントの実施へと至ったのです。小林教授のゼミ生数人は、配布活動そのものに主体的に取り組んでいます。イベントは毎年10月30日(=食品ロス削減の日)の周辺約1週間実施し、たくさんの食料・飲料や防災用品を配布します。毎回人気で、早ければ10分程度で終了することもあります。同時に、食料品を配るだけでなく、家庭などで余っている食料品の回収もしています。これにより、提供する側と受け取る側、どちらの視点からもフードロスの問題を考えられるイベントとしているのです。もちろん、防災備蓄品を配ることによる防災意識の向上も目的としています。
フードドライブでは、よりフードロスの問題に関心を持ってもらうため、学生の意見を発端としてリメイク弁当の販売も行いました。公益社団法人非常食推進機構から、賞味期限の迫ったアルファ米(お湯または水があれば食べられる、長期保存可能な米)と、さんまの蒲焼きの缶詰を提供いただき、さんまの蒲焼き丼を1食300円で販売したのです。30食×4日間の個数限定で販売したところ、全日完売。賞味期限が近い食料品でも、少しアレンジすることで美味しく食べられることが、多くの学生に伝えられたのではないでしょうか。


フードドライブの様子
これから当たり前になっていく施設を、ひと足早く提供したい。
野稲さん
とにかく学生にとって使いやすい、居心地のいい施設になってほしいと思い、日々活動にあたっています。それを少しでも感じていただけたら嬉しいです。
河口さん
私としては建物の改修を担当していますので、きれいになったキャンパスで気持ちよく過ごしてもらえたらそれだけで満足です。
松田さん
学生にはなかなか馴染みのない施設課ですが、近年はさまざまな活動を通して学生との接点が増えてきたように感じます。これからは学生とチームとなって企画を進めるなど、さらにコミュニケーションを深めていくことで、学生にとってより有益な活動ができるのではないかと考えています。
磯田さん
学生からすると、大学は社会に出る前の「つなぎ役」です。そのような中で施設課にできることは、社会に出る前に、最先端を提供することだと考えています。例えば、オールジェンダートイレや、再利用した素材を用いたテーブルや椅子などです。実際に卒業生から「今働いている会社よりも、大学のほうが施設が新しかった」と聞くことも多いのです。今はまだ普及していなくても、これから当たり前になっていく施設が、大学にはいくつもあります。それを知り、自らが体験していれば、社会に出てから提案できる幅も広がると思いますし、何らかの課題解決の力になるかもしれません。少々大袈裟ではありますが、学生に未来を見せられるような課でありたいと、私は考えています。