子どもを考えることは、未来の地球を考えること。

実は「子どもから教わること」が大切。

児童学科と聞けば、基本的には「子どもに教えること」を学ぶ場所だとイメージするでしょう。本科ではそれに加えて「子どもから教わること」も大切であると考えています。その理由は、単に子どもには大人にない視点があるから学びが多いことにとどまりません。これまでの日本の教育は教えることが中心となっており、結果として指示待ちになってしまうなど受動的な人を育ててしまっていたとも考えられます。多くの子どもたちに主体性や問題解決能力を持った人への成長を願う場合、幼少期からそうした素地を養う必要があります。つまり私たち大人が子どもから教わる姿勢を持つことで、子どもの主体性を引き出すことにつながるのです。

私は過去にスウェーデンで3年半ほど保育者をしていた経験があります。現地では、生きる、育つ、守られる、参加する、の4つの「子どもの権利」を非常に大切にしていました。この権利は1989年に国連総会で採択された「子どもの権利条約」によるもので、日本も批准しているのですが、日本で耳にする機会は少ないですよね。なかでも4つ目の参加する権利とは、子どもが自由に意見を表明できることなどを意味しています。私が勤めていた職場でも、子どもに発言させる機会をできるだけ多く提供するよう指導されていました。それをしないと、保育者の私たちが咎められるレベルだったのです。ホントなんですよ? 2020年には、子どもの権利に関して保育者などの子どもに関わる者はきちんと義務を果たさなければいけないと、法律により強化されたほどです。子どもたちの主体性を国全体で考えていることがおわかりいただけると思います。

子どものことを真剣に考えるなら、環境のことも真剣に考えるべき。

スウェーデンをはじめとした北欧諸国には「自然享受権」という権利が存在します。国有地、私有地に関わらず、土地の所有者に迷惑をかけない限りは、森林でキノコやブルーベリーを採って食べたり、バーベキューをしたりするなど、誰にでも自然を楽しむ権利があることを認めるものです。当然、子どもも例外ではありません。過剰な行動制限をかけないことが主体性を伸ばすと同時に、義務の教育にもつながっています。たとえば、森の中でバーベキューする際には火を起こしますよね。そのままにしていたら火事になってしまうため、火は使ったら消すことが大切であることまでをセットで学べるのです。つまり、子どもは自然を楽しむ権利を有すると共に、自然を守るという義務について学ぶのです。

こうした教育は、豊かな自然環境が身近にあるからこそ行えるものであり、自然環境を大切にしなければいけない大きな理由のひとつです。私自身、保育学を主としながらも、子どもの持続的な成長に寄与する環境について専門としています。当然のことですが、地球が破滅してしまっては、子どもたちは生きていけず、人類が絶滅してしまいます。極端に言えば、地球環境が悪化すれば、人類は滅亡へと向かうのです。子どものことを本気で考えるなら、環境のことも必然的にセットで考えるべきだとするのが、私の持論です。また子どもは、親やまわりの人からだけでなく、自然環境も含めたさまざまな事柄と関係しあって育っていきます。人、地域、自然……さまざまな要素を包含したものが環境であり、それをよりよいものに整えてあげることで、子どもたちがのびのびと成長できると考えています。

子どもが使う公園をつくるのに、子どもの意見を採用するのは当然。

日本の公園を見ていると「大声は禁止」「ボール遊びは禁止」など制限ばかりが目につき、利用者はほとんどが高齢者で少し子どもがいるくらい、という公園が多く見られます。本来なら、豊富な植物があり、鳥がいて、猫がいて、さまざまな年代の人々が気兼ねなく往来できる……多様な環境が凝縮された場所であるべきなのです。子どもの環境を考えれば、地域の公園のあり方を、もう一度根本的に考えていくべきだと思います。そしてそこには、公園の利用者である子どもの意見を積極的に取り入れることが重要です。私がスウェーデンにいた頃、子どもたちが主体で考える公園をつくろう、というプロジェクトがありました。「ここは危ないからマットを敷いたほうがいい」など、子どもたちからの意見が細部に至るまで反映されたそうです。完成した公園は、木の上に鳥小屋があり、安全性も重視されるなど、豊かな発想が活かされ、誰もが楽しめそうな素敵な空間になっていました。日本でもぜひ参考にしたい事例だと思います。

もちろん、日本でそのようなプロジェクトが何も行われていないわけではありません。2004年に山形県の金山町で始まった、バイオディーゼル燃料で幼稚園バスを走らせるBDFプロジェクトが好例です。家庭や地域から廃油、つまり使い終わった食用油を集め、それを燃料にして幼稚園バスを走らせるものでした。バスに乗る当事者である園児たちにとっては、自ら廃油集めにも協力することで、環境をより意識するきっかけになったと思います。

ほかにも、SDGsの優良都市として知られている北海道の下川町では、過疎化対策として森が好きな子どもを増やすための活動が行われています。これは地元の若者の将来的なUターンを期待したもので、豊富な森林資源を幼少期から身近に感じさせることで、まちへの愛着心を定着させるのです。子どもたちの環境意識を高める一方、将来のまちの活性化にもつなげられる、一石二鳥の活動と言えるでしょう。SDGsの「住み続けられるまちづくり」にも通じていると思います。

就学前学校の壁に貼ってある世界地図と世界の言葉で「こんにちは」

森林活動で、子どもが「苔」を触って体験する様子。

園庭で、保育者が、熱心に子どもの声に耳を傾ける様子。

【参考:スウェーデンの公園】
http://www.uppsalaslekparker.se/skivlingparken-norby/

東京には自然が少ないと感じるのは、大人の先入観かも。

学生たちに学んでもらうのに、「実践」以上に効果的なものはありません。いくら「子どもから教わることが大事」と話しても、本当の意味での理解は難しいのです。本科の学生は、都内の幼稚園や保育園で保育実習をします。その際に「東京は自然が少なく、子どもたちに自然環境を用意するのが難しい」といった感想がよく聞かれます。でも、よくよく子どもの会話を聞いていると、このイチョウの木はオスだとかメスだとか、あっちにある崖は危ないだとか面白いだとか、子どもは身近な自然にきちんとふれているのです。山や森といった大規模なものだけが自然ではありません。東京には自然がないと学生が勝手に思い込んでいるだけで、実際には道端の草花や樹木、昆虫や小動物、土や水や空など、自然はいくらでも身近に存在します。自然に関しては、視野の狭い大人たちからよりも、感性の豊かな子どもたちからのほうがよっぽど学ぶことは多いかもしれません。どんな些細なことからでもいいので、子どもたちからどんどん教わっていってほしいですね。

21世紀を「子どものための世紀」に。

現在、スウェーデンに留学をしている本学科の学生は、「多文化保育」をテーマに、現地で勉学に励んでいます。現地は移民が多く、肌の色や髪の色、家庭のバックグラウンドなども実に多様です。このように、本科での子どもと環境に関する学びは、地球上ならどこでも通じる共通ワードになり得ます。ただ幼稚園教諭や保育士の資格を取るだけでなく、海外でも活躍できる素地を身につけられる学科なのです。

スウェーデンの社会思想家エレン・ケイは、1900年に「今世紀を子どものための世紀に」と著書である「児童の世紀」で主張しました。残念ながら、20世紀がそのような世紀になったとは言えませんが、21世紀の今、少しずつ光があたってきたように思います。子どものことを考えることが、地球環境を、そして我々の未来を明るくします。「地球の未来のためにも、子どものことを考えたい」なんて学生が増えてきたら、私としては嬉しい限りです。

主なSDGsへの取り組み

  • 4.質の高い教育をみんなに

    未来の地球環境をも考えられる幼稚園教諭や保育士を育成することで、多くの子どもたちに質の高い教育を提供している

  • 11.住み続けられるまちづくりを

    「日本の公園のあり方」や「森が好きな子どもを増やす活動」などを伝えることで、持続可能な地域をつくっていくための考え方を提示している

  • 15.陸の豊かさも守ろう

    北欧諸国の「自然享受権」の話や、身近に豊かな自然環境があることの素晴らしさに気づきを与えるなど、陸の豊かさを守る大事さを伝えている

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