太陽光発電の性能を上げるカギは、分子どうしのマッチング!?

目的のために、数学も化学も物理学もITも学ぶ研究。

小学生のとき、世界的学者が解き明かした定理、現象を教えてくれる算数の授業がありました。このとき、あらゆる自然現象を表現できる「数学」という分野を知りました。私は数学に興味を持ち、矢野健太郎先生がお書きになった「素晴らしい数学者たち」という本に夢中になったことを覚えています。これがきっかけで理系の学者に興味を持ちました。そして彼らは、数学だけでなく、物理、哲学、芸術にも長けているのです。私も、何にでも精通している人になりたい!と思い、本格的に理系の道を志しました。
私は、学んでいく中で、目には見えないミクロな世界も数学で表現できることを覚え、大学では、分子物理・量子化学と呼ばれるミクロな世界を数式に表すこと、実験でその現象を見つけ出すことに没頭しました。自分の興味ある世界が繰り広げる物理・自然現象が、物理、化学、数学とさまざまな学問を跨いで表現できることに感動し、今の研究に至ります。

みなさんは、「スーパーコンピュータ」という言葉を聞いたことがあるかと思います。スーパーコンピュータ、通称「スパコン」は、大量の計算を高速で処理する能力を持つコンピュータのことを言います。日本は、世界最高水準の性能を持つスパコン「富岳」を所有しています。最近ではコロナウィルス感染拡大防止にむけて、飛沫の拡散の様子を可視化したことが話題になりました。創薬、次世代エネルギーデバイスの開発、地震や津波の予測、宇宙の起源など、さまざまな科学の解明や進展に、スパコンは重要な役割を担っています。

私の専門は、計算科学という領域です。
私はスパコンを利用して、太陽の光からより多くの電気に変換できる太陽電池の材料についての計算をしています。
太陽光は、「再生可能エネルギー」と呼ばれており、地球資源の一部など自然界に常に存在するエネルギーで、「枯渇しない」「どこにでも存在する」「CO2を排出しない(増加させない)」という特徴の万能な資源です。そのような資源をもとに、太陽電池で社会にとって有用であること、今回のテーマでもあるSDGsで言えば、クリーンなエネルギーや技術革新、気候変動への対策などにも直接的に関係している、社会にとって有用で話題の研究テーマです。
そこで、私たちは、仮想空間でのシミュレーションなどを活用し、さまざまな分子が発電するメカニズムを探求しています。

研究には、理系の幅広い知識が求められます。
太陽電池の仕組みや材料を理解するためには物理や化学の知識が必要です。そして、スパコンを利用して、シミュレーションや機械学習などを行うために、統計、数学を勉強し、情報処理の技術を活用します。このように、機械学習や深層学習に加え、物質の物理の理論、実験、シミュレーション、データベース、通信など、さまざまな技術が含まれて、成り立っている分野です。このような材料開発する分野を、マテリアルズ・インフォマティックスといいます。しっかりとした解析、考察をするためには、物理・化学・材料学などの専門知識を持つことが必要だと思います。

私は、大学生と大学院生(大学院とは、大学を卒業した後、さらに学び研究をする機関です)に向けて、物理に関する授業を行っています。
1年次には、全員が数学・情報・物理の基礎を学びます。2年次以降の物理分野の授業では、波や光、電磁気学、宇宙や天文の物理、目に見えない世界を表現する量子力学を学修します。また、高性能なコンピューティングマシンを使った演習が可能で、シミュレーションによって、目に見えない現象や分からなかった現象について理解できます。
わかった!と感じると学生の皆さんに自然と笑顔がこぼれます。この学生さんの笑顔が私の活力です。
講義や実験、プレゼンテーションなどについて、バランスよく習得できるところが数物情報科学科の魅力だと思います。

分子の反応を見る。

太陽光発電は、多くの場所で見かけるようになりました。私たちの研究は、より少ない太陽光でも多く発電するためのメカニズムを、分子レベルといった小さいサイズの世界の視点から考えています。分子の動きは肉眼では見えません。ですので、分子の形や反応を理解するために、理論を組み立て、スパコンを利用して、仮想空間で再現しているということです。
太陽光を浴びたときの分子の反応や動きはさまざまです。異なる分子を近づけたり、結合させたりあるいは遠ざけたり、さらに温度や圧力などの環境も変化させたり。分子をあらゆる状況下にさらすことで、さまざまな反応を見つけ、理論を組み立て解析し、説明することをめざします。
分子を人間に例えてお話ししてみましょう。異なる分子同士を近づけて反応を見る行為などは、ある意味恋愛マッチングをしているようなものだからです。興味のない人が近くに来るよりも、意中の人が近くに来るほうがドキドキしますよね。それが分子で言うところのエネルギーであり、太陽光を電気に変える力そのものなのです。もっと言えば、向き合ったとき、隣同士で並んだとき、手をつないだときなどの近づけ方も変えながら、その人がもっともドキドキする形を検証します。
私たちが見ているのはあくまで仮想空間。きちんと「なぜこの反応が起きるのか」を説明できなければ、現実の世界で再現できない。つまり社会で役に立てられないのです。

質問に答えるより、質問するほうが難しい!?

本研究室では、学会発表の機会を重要視しています。学会とは、研究者が研究してきたことを発表し、評価や批判検証を行う場のことです。私は、自分の研究を知るには、同年代、他大学、海外の研究者と議論や交流、つまり「外の世界」に触れることが大切だと思っています。
研究室内でのゼミでも、必ず質問することを心がけるよう言っています。質問は、簡単なようで実はすごく難しいのです。質問をするという行為は、その研究に興味を持ったということであり、発表者、自分以外の研究者をリスペクト、その業績を讃えている行為の1つでもあるように思います。また質問をすることで、自分が質問への答え方も学ぶことができます。
学会は、スライドなどの資料を見せながら大勢の前でプレゼンする口頭発表と、1枚のポスターに概要をまとめ、会場に掲示して発表を行うポスター発表の2種類の発表形式があります。特にポスター発表では、掲示物を見に訪れる人に対して直接コミュニケーションが取れるので、深く議論することができます。メモを片手に質問をしている姿、また逆に自分の発表に対して質問を受けて真摯に答えている学生の姿を学会会場で見かけると、研究者としても人としても、大きな成長を感じほほえましく思えます。本研究室の学生は、納得がいくまでとことん突き詰めると感心しています。その成果もあって、学会ではポスター発表優秀賞、学会精選論文に選ばれています。

学会に参加する学生

ポスター発表を行う学生の様子

まわりを見るから、自分のことが見えてくる。

自分の研究だけに、ただひたすら没頭し続ける。研究者の鑑のような姿勢だとは思いますが、私は、これでは学生は成長できないと考えています。必要なのは、世の中や研究テーマ界隈の動向、過去の情報や身近な研究者の活動などをきちんと知り、社会における位置づけを把握することです。学生は、どうしても目の前の研究結果がゴールだと捉えてしまいがちです。社会課題解決の重要性が叫ばれている昨今、その研究が将来的にさまざまな場面でどのように役立つのかという視点を持ち続けることが大切だと思います。そのため学生には、世の中の動きに興味を持つことはもちろんのこと、学術雑誌(研究者の研究成果をまとめた論文が掲載された刊行物)を読みましょうと、伝えています。
社会における自分、自分の研究の意味や役割がくっきりと見えてほしい。やりがいを見つけ出し、社会の役に立てる人を育てるのが、本校および大学が果たすべき大きな役割だと思うのです。
問題が用意されていて、それを解くという受身の姿勢は高校生まで。大学は、自分が解きたい問題を自ら探す場所です。あなたはここで、どんな問題を解きたいですか?

主なSDGsへの取り組み

  • 7. エネルギーをみんなに、そしてクリーンに

    自然由来であり、地球上のどこでも利用できる太陽光を研究し、太陽光発電の普及を促進することで、クリーンなエネルギーを世界中に行き渡らせることに貢献している

  • 8. 働きがいも経済成長も

    研究結果を民間企業に提供し、さまざまな商品開発に役立ててもらうことで、経済成長に貢献している

  • 9. 産業と技術革新の基盤をつくろう

    太陽光発電という次世代エネルギーを研究し、その成果を企業など社会に提供することで、産業と技術革新の基盤づくりに役立てている

  • 13. 気候変動に具体的な対策を

    発電時に温室効果ガスを排出しない太陽光発電に関わる研究を進め、さらなる普及に貢献することで、地球規模での温室効果ガス排出量の削減につなげている

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