|特集1|日本女子大学 リカレント教育課程が
新たな時代を迎えています

本学にリカレント教育課程が設置されたのは2007年。同年は改正学校教育法が施行され、大学に、学部・大学院の博士課程と並んで、社会人に一定のまとまりのあるプログラムを提供し、履修証明を授与する課程の設置が認められた年です。2008年、日本女子大学リカレント教育課程は、日本の大学として初めて設置されたリカレント専門の教育機関となりました。

リカレント(recurrent)とは、「再出発」「循環」を意味し、教育分野においては学校教育から離れた後にも学び続け、就労と学習を交互に繰り返すことを指します。

本学の創立者・成瀬仁蔵の教育の精神には、自ら考え自ら行動する「自念自動」、並びに「自学自動」があり、それがもととなって「生涯教育」および現在のリカレント教育の基礎となる理念が掲げられています。
「立派な人格とは、毎日新しい人間に生まれ変わる人である。生涯を進歩の過程とし、新しい知識を求め、生きた経験を積み、幾歳になっても青年の様な旺な精神を以って益々奮闘して境遇を開いて行く人である」

現在のリカレント教育課程は「働く女性のためのライフロングキャリアコース」と「再就職のためのキャリアアップコース」の2つのコースを有し、さらに2023年10月には「次世代リーダーを目指す女性のためのDX人材育成コース」を開講します。

学園が培ってきたリカレント教育と、新しいコースが育てる人材像について、生涯学習センター所長の高梨博子教授にお話をうかがいました。

・1901年
日本女子大学校創立
・1908年
「女子大学通信教育会」設立
・1949年
日本女子大学通信教育部開講
・1995年
西生田生涯学習センター設置
・2001年
生涯学習総合センター設置(目白)
・2007年
リカレント教育課程開設、「リカレント教育・再就職システム」として開講
・2017年
内閣府男女共同参画局「平成29年度 女性のチャレンジ支援賞」受賞
・2020年
「東京都女性活躍推進大賞」受賞
・2021年
4月 「再就職のためのキャリアアップコース」開講 (既存コースを名称変更)
6月 「働く女性のためのライフロングキャリアコース」開講
・2023年
10月 「次世代リーダーを目指す女性のためのDX人材育成コース」開講

人生の次のステップを考え、
自らの人生を切り拓いていく「港」となる リカレント教育課程

生涯学習センター所長 高梨博子先生

高梨 博子(たかなし・ひろこ)
日本女子大学文学部英文学科教授。日本女子大学文学部英文学科を卒業、大学院文学研究科英文学専攻博士課程前期修了後に渡米。カリフォルニア大学サンタバーバラ校で博士号(言語学)を取得後、カリフォルニア大学デービス校やイーロン大学での教歴を経て、2009年より本学文学部英文学科の教員として、異文化コミュニケーションや日常生活における対話を通じた価値創造など言葉に関する教育・研究に従事。2022年4月、日本女子大学生涯学習センター所長に着任。

成瀬先生の教育理念を基にした本学のリカレント教育課程の開設理念は「日本女子大学は、卒業生はもとより、すべての女性にとって人生航路の必要な時に立ち寄り、休息し、給油し、糧食を得て、次の航海に再出発できる港になりたい」(創設者・ソーントン不破直子名誉教授)というものです。

人生100年時代を迎えた今、リカレント教育は日本の女性の生き方を変える力となり、社会全体で女性活躍を推進する力となっていきます。本学のリカレント教育課程は、全国からの受講生を受け入れ、多様な受講生同士、受講生と修了生あるいは学部生が、さまざまな形で交流し議論しあって自己成長できる環境になっています。このように、共に考え学びを進めることができれば、その一つ一つのプロセスが力となり、さらなる自信につながっていきます。

本学の生涯教育センターでは、生涯教育の公開講座とリカレント教育課程を設置していますが、2つの大きな違いは「就労」に結びつくことを前提としているかどうかです。生涯教育の公開講座には、趣味の講座も多くありますが、リカレント教育課程は、一旦社会に出てキャリアの中断があった女性でも、再び職を得て社会参画することを通して、自己実現することを目的としています。ここでの学びは、本学が創立以来、教育理念としてきた「生涯学び続けて人格を高め続ける」ことを実現するもので、官庁の方々からも「時代がようやく日本女子大学に追いついてきた」と評価をいただくプログラムです。たとえば「働く女性コース」には長く働くための心構えを学ぶ「女性のライフスタイルと起業」や「ライフロング・キャリア・デザイン」がありますし、「再就職コース」では「キャリアマネジメント1・2」をはじめとする必修科目に加え、ビジネスに必要なスキルを強化できる独自の科目を提供するなど、それぞれの受講生のニーズに合わせた科目を取り揃えています。

リカレント教育課程の修了生と本学学部生が交流する機会もあり、互いに好影響を与えています。本学学部のキャリア形成科目「女性と職業」の最終週には、リカレント教育課程の修了生が講演を行います。豊富な経験を積まれた女性たちの講演は、学部生にとって大変刺激になるようです。リカレント修了生には、さまざまな事情によるキャリアの中断ののち、再就職を考えた人もいます。そのような実体験を聞くことにより、人生において学び直しの場があり、再出発するための支援が受けられることを知る機会となります。人生100年と言われる時代、人それぞれのタイミングで、いつでも新しい人生を切り拓いてゆけることに勇気づけられるようです。

創設者のソーントン不破直子名誉教授

「再就職コース」受講生の入学実績
(1~25回生2023年4月まで全入学者713名)

女性活躍とDX推進を軸にした「DX人材育成コース」を設置します

2023年10月に開講する「DX人材育成コース」のキーワードは「DX(デジタルトランスフォーメーション)のリスキリング」と「女性の活躍」です。

DXとは主に企業において、AI、IoT、ビッグデータなどのデジタル技術を活用して、業務プロセスを改善したり、新しい製品・サービスなどを生み出したりする取り組みです。近年、DXを推進する企業は増加し、そこで働く人材にはデジタルやコンピュータに関する知識の習得が求められます。しかしデジタル技術の進歩は目覚ましく、社会人であってもDX関連の業務に携わったことのない人は、聞き馴染みのないスキルを習得しなければなりません。そこでリスキリング、すなわち今後新たに発生する業務に役立つ知識やスキルを勉強する必要があるのです。

世の中ではDXの必要性が叫ばれていますが、日本ではこの分野の推進が非常に遅れていると言われます。政府もDXの推進を重要課題とし、今年1月の岸田総理の施政方針演説の中でも、リスキリングに言及されています。

加えて、日本はジェンダーギャップ指数が世界の先進国と比べて課題になっています。日本では女性の就労者は増えているものの、管理職などのマネジメント職に就く人はまだまだ少ないのが現状です。そこで本学のリカレント教育は、女性のリーダーを育てるなど、ジェンダーギャップの解消も重要な目的の一つです。

DX人材育成コース」は、コンピュータリテラシーの習得にとどまらず、基礎的または応用的な重要分野のプログラムの開発・実施をするためのリスキリングを想定しています。本学は私学女子大唯一の理学部を有する大学ということもあり、理学部の専任教員がアカデミックな講義を受け持つなど、理学部の協力も得ています。

さまざまな職場のDX推進チームのプラットフォームに参加し、次世代リーダーを目指す女性のためのコースとなっています。

変革し続ける社会で活躍するためのリカレント教育を目指して

私がアメリカの大学院で学んでいた時、学部を卒業してしばらく働いたあとに、大学院に戻り、勉強し直して再び社会に出て行く、あるいは研究者を目指す学生を多く見てきました。

学校を卒業して社会へ。そして学び直して再び社会へ、というリカレント=学びの循環は、世界では常識になっていると思います。また、就労を継続しながら、夜間や休日を利用して学ぶ方も多くいます。世界では、多様な人々が、お互いを尊重しながら、自立し責任ある自己として自らの道を切り拓いており、その生き方や働き方は人それぞれです。

本学のリカレント教育課程の修了生の中にも、本学の教育理念に共感を持ち、その結果として博士課程前期、さらには後期まで修了した方がいらっしゃいます。このように、修了生たちの進路もさまざまで、リカレント教育課程での学びをきっかけにそれぞれの人生を進まれています。

経済社会が時々刻々と変化し、将来を見通すことは難しい状況にあります。そのような中、「自分がどう生きたいのか」「何のために何を学ぶべきなのか」を考え、自分なりのキャリア設計のビジョンを思い描いたうえで、創立当時から生涯教育の精神を培ってきた日本女子大学におけるリカレント教育課程で、多くの女性にさらに学んでいただければと思います。

「働く女性コース」より

「働く女性コース」より


学びにチャレンジしたリカレント教育課程修了生からは、たくさんの声が寄せられています。
今回はその中のお二人から特別にメッセージをいただきました。