|特集2|18歳、19歳で成人年齢を迎えた本学の学生、生徒たちをサポートします!

今年、約140年ぶりに民法の一部が改正されて成人年齢が18歳に引き下げられました。2022年4月1日から施行され、2002年4月2日生まれから2004年4月1日生まれの人は施行のその日に成人に達しました。2004年4月2日生まれ以降の人は、18歳の誕生日に成人に達します。


「成人」になった18歳、19歳の意識とは?
約8割が不安を感じていました。
~学生にアンケートを実施しました~

18歳といえば、多くの人が高校3年生です。成人になると、親の同意なく売買、借金、投資などの契約や結婚もできます。社会経験の少ない高校生がこれらの行為をすることは、本人も親にとっても不安なものですが、今まで「二十歳までには1年の猶予がある」と思っていた19歳の大学生にとっても不安は大きなものでしょう。

その不安がどのようなものなのか、あるいは成人としての意識はどうかを確認するために、本学1、2年生を対象に「18歳、19歳成人アンケート」を実施しました。

2022年4月1日より成人年齢が18歳に引き下げられたことを知っている学生は99.3%。その上でどのような意識を持っているかを尋ねた結果は次のようになりました。

〈調査結果サマリー〉アンケート回答者の割合

〈調査概要〉

  • 調査名称:「18歳、19歳成人アンケート」
  • 調査方法:インターネット調査
  • 調査時期:2022年5月23日(月)~5月28日(土)
  • 調査対象:日本女子大学1年生、2年生
  • 回答数 :合計587名(1年生333名、2年生254名)
    ※3,110名にアンケートを配信し、587名が回答

附属高等学校の取り組み

高校3年生の教室には、18歳の誕生日を迎えて既に成人になった生徒と未成年の生徒が一緒に学んでいます。18歳成人が「わたしに関係のあること」になった附属高等学校ではどのような取り組みが行われているのでしょうか。

今年度から現代社会に代わって「公共」が必修科目となった社会科の日朝秀宜先生と、同じく金融教育が始まった家庭科の大沢真実先生に、高等学校の成人教育についてお話しいただきました。

多種多様な場面で「シチズンシップ教育」の機会を提供します社会科 日朝秀宜先生

現在、本校の社会科研究室の壁面には、第一学習社という教科書会社による「18歳成人 何が変わる? 何が変わらない?」と題した大きなポスターが掲示されています。内容としては、選挙・飲酒・喫煙・ギャンブル・パスポート・結婚・契約・年金など、日常生活で直面するいろいろな具体例が説明されているので、廊下で立ち止まって興味深く読んでいる熱心な生徒の姿がしばしば見受けられます。

本校のカリキュラムは、文系・理系といったいわゆるコース別を採用していないため、3年生は全員が必修科目として「政治・経済」を履修します。その中には、「選挙制度」や「消費者問題」という単元があり、18歳成人による身近な問題は授業でも取り扱われます。

特に生徒が直近の問題として18歳成人を実感したのは、選挙権ではないでしょうか。高校3年生の中には、今年の7月に実施された参議院議員選挙が初めての投票となった生徒もいました。そもそも「選挙権の拡大」というテーマは、「政治・経済」の他に「日本史」でも「世界史」でも必ず学ぶ事柄です。かつては経済的条件や性別要件が設定された制限選挙の時代が長く続き、日本の女性が選挙権を獲得したのは第二次世界大戦後のことでした。平塚らいてうや市川房枝がいくら奮闘してもなかなか実現しなかった女性の参政権ですが、現在では男女同権は憲法で保障され、誕生日によっては高校在学中に選挙権を行使する時代になったことは、女子校としての本校にとっても大いに感慨深い出来事です。

本校では、毎週1時間「ロングホームルーム」が設定され、生徒はグループごとに決めたテーマについて、発表・討議をします。そこでは、成人年齢の引き下げについて話し合うクラスも数多く見受けられます。やはり生徒にとってみると、ホットでタイムリーな話題のようです。一方、高校3年生になると選択科目の中に「時事問題」が週に2時間連続で設定され、さらに掘り下げて各自で調べたことを発表し話し合う授業が展開されています。

ネットリテラシー講座

また高校のカリキュラムには、「総合的な探究の時間」が設定されていますが、もともと本校では探究型の授業がいろいろと展開されています。普段の授業やホームルームの時間を通じて、社会生活に関わることを学び考える機会はたくさんあります。このたびの民法改正に伴って学校として慌てて成人教育を始めるのではなく、本校には従来から継続されてきた揺るぎない学びの伝統があるのです。特に近年は、通常の授業とは別に「プラスαの学び」として、「メンタルヘルス教育」「ライフデザイン教育」「シチズンシップ教育」に積極的に取り組んでいます。これらの中の「シチズンシップ教育」が、まさに今春の18歳成人により2年間前倒しになったという感触です。今までの20歳成人は、ようやく大学生になってから実感することでしたが、現在はまさに自分自身に直結することになりました。今後は探究型学習の中で、18歳成人が直面する諸問題に対して意欲的に取り組む生徒がさらに多くなることでしょう。

今年の2月には、18歳成人に関する全学年対象の特別授業を弁護士に依頼して実施しました。生徒たちの関心は非常に高く、今後も法曹界の方々のご協力をいただきながら、「シチズンシップ教育」を継続していきたいと考えています。

本校における18歳成人教育は、単一の科目にとどまりません。これからも多種多様な場面で学ぶ機会を数多く提供いたしますので、ぜひとも「自学自動」の精神で学びを深めていただきたいと思います。

クレジットカードの支払いシミュレーションもしながら具体的な消費者教育を実践します家庭科 大沢真実先生

2年生の家庭科で行う消費者教育は「契約」を取り上げます。契約とは何か、具体的な消費者トラブルなどを学びますが、18歳が成人年齢になったことで最も大きな危機感を感じるのは、未成年者の取消権が適用されなくなることです。

本校の生徒たちは一人1台のタブレット端末を持ち、授業動画を見たり、インターネット検索もします。18歳で親の同意なく携帯電話などの「契約」ができるようになった今、今までのように「未成年者だから契約を取り消します」と言えなくなり、生徒たちはとても身近な問題として捉えています。

さらに今年度から家庭科で始まった金融教育では、投資についても学びます。金融商品のリスクとリターンから、クレジットカードのリボ払いや分割払いのシミュレーションもします。自分で計算することで、クレジットカードを作るかどうかという選択も身近なものになると思います。

また、家庭科と情報科の連携授業では自分でテーマを設定してレポートをまとめますが、このときに消費者問題をテーマにする生徒もいることから、18歳成人に対する関心の高さがうかがえます。

神奈川県消費生活課発行

消費者教育のテキストは、消費者庁の冊子『社会への扉』や神奈川県が出版する『JUMP UP消費者力を身につけよう!』など、高校生が陥りやすいトラブルがわかりやすく取り上げられている教材を活用しています。

3年の家庭科では民法の授業を行なっています。ここでは18歳成人によって女性の結婚年齢が引き上げられたことにも触れますが、「同じクラスに結婚できる人と、まだできない人がいる!」というのは不思議な感覚であり、民法改正を身近なこととして捉えるきっかけにもなっているようです。

家庭科は消費者教育など、生活にまつわるさまざまなことを具体的に行う教科です。社会科とも日常的に連携をとりながら、18歳成人をきめ細かくフォローしたいと思います。


不安の原因はここに!
18歳、19歳になると喪失する「未成年者取消権」
~18歳、19歳成人アンケートおよび消費者力テストとその結果に基づく座談会を実施しました~

そもそも成人年齢に達すると「できること、できないこと」とは何でしょう?

最も重要な「できないこと」は、未成年者に与えられている権利である「未成年者取消権」を18歳、19歳が失うことです。新成人は高額な商品やサービスを親の承認なしに「契約」できるようになりますが、悪質な勧誘や不当な契約内容のものであっても「未成年だから取り消します」と言えなくなるのです。

では実際のところ、新成人たちの認識がどこまで進んでいるのでしょうか。

学部1年次~4年次までの本学学生に「消費者力テスト」を実施しました。

以下、解答率が50%以下だったQ&A+αを紹介します。

  • 契約は押印した契約書を交わしたときに成立する。
  • NO。口頭であっても、契約は申込と承諾の意思表示の合致により成立します。契約した者はその合意内容に拘束され、勝手に反故にはできません。 もし、口頭での契約が有効でないとしてしまうと、コンビニでの商品購入や、電話でのピザの注文なども契約書が必要になってしまいます。契約書を交わす場合があるのは、契約内容を明確にし、トラブルを防止するためです。
  • テレビショッピングを見て、商品を電話で注文したが、商品がイメージと違っていた。消費者はクーリングオフできる。
  • NO。お店でモノを買う『店舗販売』、テレビショッピング・カタログ販売・インターネット通販などの『通信販売』の場合、クーリング・オフ(無条件解約)制度はありません。訪問販売などと違って「不意打ち性」がないからというのが理由で法律(特定商取引法)では定めていません。ただし、事業者が自主的に解約制度を定めている場合はあります。
  • 17歳の高校生が18歳とウソをついて契約をした場合、その契約を取り消すことはできない。
  • YES。未成年者が、「自分は成年者だ」とか「保護者の同意を得ている」などとウソを言ったりした場合は、その契約を取り消すことができません。ただし、事業者が未成年者に生年月日を偽るように仕向けた場合には取り消しができます。
  • 自宅に突然電話がかかってきて、「美味しいカニを安く販売している。送っていいか」と言われた。
    「結構です」と答えた。正しい断り方か?
  • NO。「結構です」という日本語は注意が必要です。自分は断ったつもりでも、業者からは購入を了承したと言われ、執拗に契約成立を主張してくる場合があります。要らない場合は「要りません!」とはっきりと断りましょう。
  • 銀行にお金を預ける際の普通預金金利が年利0.001%、逆にお金を借りる場合のフリーローンなどの 借金の金利が12.0%と すると、その金利差は12000倍である。
  • YES。金利差は12000倍にもなります。フリーローンとは使いみち自由な借金です。最近の銀行のフリーローン金利は5%から14%ほどです。クレジットカードのキャッシング金利も同様です。いかに借金の金利が高いかが分かるでしょう(住宅ローンはかなり低くなっています)。

【細川教授のコメント】

消費者力テストの正解率は57.9%、約6割という結果でした。これは自分の常識で判断したのがある程度正しかったことを示しています。
また、正解率が低かった問題は、みなさんの考える常識と法律の解釈が違っていたのではないかと考えられます。

18歳でできること、できないこと
●18歳でできるようになること
  • 親の契約がなくても契約ができる。
  • 10年有効のパスポートを取得できる。
  • 公認会計士、司法書士、医師免許、薬剤師免許などの国家資格が取得できる。
  • 結婚できる。
  • 性同一性障害の人が性別の扱いの変更審判を受けられる。
●20歳にならないとできないこと
  • 飲酒。
  • 喫煙。
  • 競馬、競輪、オートレース、競艇の投票券(馬券など)の購入。
  • 養子を迎えること。
  • 大型・中型自動車運転免許の取得。

※出所/政府広報オンライン「18歳から“ 大人”に!成年年齢引き下げで変わること、変わらないこと。」参照。

消費者教育が専門の家政学部
細川教授を迎えて座談会を実施しました

消費者力テストを受けた学生たちは「知っていると思っていたことも、改めて不正解だった問題が多かった」という感想が多くありました。そこで家政学部 被服学科 細川幸一教授がファシリテーターとなって学生が抱える不安を少しでも解消するための座談会を実施しました。

はじめに成人年齢になったことについて、自分自身はどう考えますか?
不安ですか?あるいは親に相談しなくても良くなっていいなと思いますか?
不安に感じています。
なぜなら高校生の18歳になるまでアルバイトもしたことがなくて、社会経験が乏しい状態で成人年齢を迎えてしまったからです。どこまでができることで、何ができないのかを知らない状態で成人年齢を迎えてしまった印象です。
自分が本当に大人の仲間入りをしてもいいのか?という不安が大きいです。
今までどんな消費者教育を受けてきたかを教えてください。
今まで受けた消費者教育は、高校の家庭科の授業です。でも、高校時代はそれが自分に対して向けられた教育とは思っていませんでした。二十歳になるまで、2年間の猶予を持って消費者教育を受けていると思っていたので、自分ごととして捉えられていなかったと思います。
高校生のとき、「大学生になるといろいろな人との出会いがあり、中には悪い人もいるから詐欺に気をつけなさい」と、いろいろな人から詳しく教えてもらったと思います。でも今回の消費者力テストの結果はあまり良くありませんでした。わかっているつもりだったのに。わかっていなかったんだなと実感しました。
みなさん不安が大きいようですが、気をつけたいのは、誰かに騙されて高額商品を買わされるなどの被害者になるだけでなく、加害者になる可能性もあることです。
最近では持続化給付金の詐欺が問題になっています。大学生が他人に言われて100万円の不正請求をしたという事件ですね。今までなら18歳、19歳は未成年者なのでニュースに名前も出なかったけれど、これからは名前が出てしまうこともあるでしょう。新成人は被害者になるだけでなく、加害者にならないという意識も必要です。
それはとてもショックです。今まで被害者になったらどうしよう?ということだけに気が向いていました。
私の授業で「トラブルがあったとき、誰に相談するか?」と尋ねたところ、「親には絶対に相談しない」と答えた人が多かったので、今回のアンケート結果で約8割の学生が「親に相談する」と答えていることに驚いています。みなさんはどうでしょう?
親に相談すれば叱られると思うけれど、相談すればちゃんと解決すると思っています。
私も親に相談します。日頃から「何かあったら相談しなさい」と言われているので。
自分のトラブルによって、一番迷惑をかけてしまうのが親なので、まず親に相談します。
実際のところ、親がいい判断ができるとは限りません。年配の人ほど消費者教育は受けていません。みなさんのおじいちゃん、おばあちゃん世代には「契約」という概念さえない人もいます。だからこれだけ報道されていても、年配の方が振り込み詐欺にあってしまうのが現状です。
騙されるのは若者だけではないので、親の世代にも消費者教育を行い、情報提供をしなければいけないと強く感じています。
消費者教育は大人も含めた生涯教育であるべきですね。
新成人の皆さんへ
「消費者力」を身につけて 自立した消費者になろう
家政学部 被服学科「消費生活研究室」 細川 幸一教授

今回のアンケート結果を踏まえて「親に相談する」と答えた学生が多くいたことが意外でした。アンケート上では8割が「親に相談する」と答えてはいるものの、実際にトラブルにあった際に本当に親に相談できるのか、内容によっては心理的なハードルが高いのではないかと考えています。

今はまだ成人年齢の引き下げが施行されたばかりですが、今後3カ月、6カ月経った時に、どういうトラブルが出てくるかを注視し、親はもちろん、教育機関もサポート体制を整えることが重要です。

新成人の学生ができる対応策として、一番は自分の意思で契約を結ぶことができる自立した消費者としての自覚をきちんと持つことです。特に18歳、19歳の学生は一人暮らしをスタートする人や、初めてアルバイトをする人も多く、不慣れな中で一人で契約を結ばなくてはならないケースも多くなると思います。そのうえで必要のない契約はきっぱり断る力を身に付けること、そして不安な時にはすぐに相談をすることが肝心です。

親も、子どもの消費生活においてどのようなトラブルが発生する可能性があるか、万が一トラブルが発生した場合はどういった対処をするべきかを考え、子どもと共有しておくと良いでしょう。

また、新成人が被害を受けないための対策や心構えも大事ですが、逆にマルチ商法や振り込め詐欺など加害者となってしまうおそれもあります。被害者にも加害者にもならないためにリスクマネジメントすること、自分で考えて自分で行動する“消費者力”をきちんと養っていくことが、今後さらに重要になってくるのではないでしょうか。

細川幸一教授
【プロフィール】

独立行政法人国民生活センター調査室長補佐、アメリカ・ワイオミング州立大学ロース クール客員研究員等を経て、現職。一橋大学法学博士。消費者問題としての医療トラフ ルや公共料金のあり方、持続可能な社会のための消費者教育(エシカル消費)などを研 究。著書に『大学生か知っておきたい 消費生活と法律』、『大学生が知っておきたい生 活のなかの法律』(いずれも慶應義塾大学出版会)がある 。


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