|特集1|世界を、時代を、自分を超える。国際文化学部START

2023年4月、国際文化学部 国際文化学科を開設し、「越境力」を重視した学びを展開します。

人文科学系では珍しい実践型プログラムによる学修。
脱教室・脱キャンパス型の海外・国内研修プログラム

・スタディ・アブロード・プログラム

1年次必修の海外短期研修。

オックスフォード、ボストン、シドニー、南仏・パリ、台湾、韓国、フエ・ハノイの7つの研修先候補から1つを選択し、事前学修を経て、現地で約2週間の研修を行う。

・実践プログラム(海外a・海外b・国内)

2~3年次必修で、海外・国内のさまざまな地域に赴く、探求・課題解決型プログラムで、下記の3つのうちのいずれか1つを選択する。

海外aは、原則語学力を問わず、希望者全員が履修することのできる海外留学プログラム(アメリカ・ナイアガラ・フランス・中国)で、半期の語学研修と現地調査が含まれる。

海外bは、語学力等の学内選考を経て、本学の協定大学または認定大学へ1年間留学するプログラム(給付奨学金制度あり)。

国内は、国際芸術祭、美術館、文化遺産などの見学実習や、地域と協働する研修プログラム、身体パフォーマンスに関するワークショップなどを予定。

「トランスカルチャー(越境文化)」を体現する特別招聘教員

国際文化学部は、グローバル化が進む一方、異文化の間で問題も生じている不確かな時代を乗り切るために、トランスカルチャー(越境文化)の視座を身につけることを提唱します。

そこで、さまざまな国や分野を横断して活躍し、まさにトランスカルチャーを体現する存在である、都築響一氏、ヤマザキマリ氏、マライ・メントライン氏を、特別招聘教員としてお呼びします。

都築響一氏

ヤマザキマリ氏

マライ・メントライン氏

国際文化学部に関する情報はこちらから

学部長に河本真理教授が就任します文化・芸術は、国を、地域を、時代を超える
国際文化学部で学問領域をも越境した新しい学びを

国際文化学部開設に伴い、人間社会学部文化学科で教鞭を執られた河本真理教授が学部長に就任されます。河本教授からのメッセージは、国際文化学部のページの紹介動画からご覧いただけます。

キーワードは、国境やジェンダー格差といった境界や、
自分の限界をも超えようとする「越境力」です。

河本真理(こうもと・まり)
日本女子大学人間社会学部文化学科教授。東京大学で美術史を学び、パリ第1大学で博士号(美術史)取得。専門は西洋近現代美術史。主要な著書に『切断の時代-20世紀におけるコラージュの美学と歴史』(ブリュッケ、2007年、サントリー学芸賞、渋沢・クローデル賞ルイ・ヴィトン ジャパン特別賞受賞)、『葛藤する形態-第一次世界大戦と美術』(人文書院、2011年)。共著に『現代の起点 第一次世界大戦 3 精神の変容』(岩波書店、2014年)、『ピカソと人類の美術』(三元社、2020年)、『戦争と文化-第二次世界大戦期のフランスをめぐる芸術の位相』(三元社、2022年)など多数。


--国際文化学部国際文化学科の前身である人間社会学部文化学科ではどのような学びがありましたか?

私の専門は西洋美術史ですが、文化学科ではそれに加えて日本美術史、映画・ダンス・音楽・ファッション・思想など、幅広い分野をカバーしていました。

語学も、英語、ドイツ語、フランス語、中国語、韓国語などから、英語を含めた2つ以上の言語を学んでいました。

国際文化学部では、こうした文化学科の多様な学びをベースにしながら、実践型プログラムを通して「国際力」「実践力」「発信力」をパワーアップします。

--河本先生の動画メッセージでは「国境やジェンダー格差といった境界を超えようとする越境力」に触れられていますが、先生のご活躍する分野でジェンダー格差を感じることはありますか?

大学院生や美術館の学芸員の女性は増えてきましたが、大学教員となると男性が多いです。特に役職に就くのは、いまだに多数が男性です。このようなジェンダー格差も超えてリーダーシップを発揮し、広い世界で活躍する人材を育てたいですね。

--国際文化学部のキーワードは「越境力」ですが、河本先生ご自身が「越境」して、パリ第1大学で博士号を取得されています。なぜパリ大学を選ばれたのか、そしてその越境体験はどのようなものだったのでしょうか。

私自身、パリに長く留学していましたが、パリ第1大学に留学したのは、西洋近現代美術史、特にコラージュを本格的に研究するためでした。日本の大学院にいた頃、私はまだ井の中の蛙で、研究もやや行き詰っていたのですが、留学して目の前が開けたようになり、博士論文を書き上げることができたのです。ポンピドゥー・センターのカンディンスキー図書館でインターンをしたり、ルーヴル美術館で翻訳や通訳をしたことも、とてもよい経験になりました。こうしてまさに「自分の殻を破る」ことができたわけで、この「越境」体験がなかったら、今の私はないといえます。

--河本先生は最近、藝術学関連学会連合第16回公開シンポジウム「疾病と芸術」ではパネリストを務められましたが、このテーマは異なる学問分野を「越境」しているように見えます。

大変アクチュアルなテーマについて、美学・美術史・音楽学・舞踊学の分野から研究者が集まり、シンポジウムを行いました。私は、1918-20年にかけて大流行したスペイン・インフルエンザ(通称、スペイン風邪)が、20世紀美術にどのような影響を与えたのかについて考察しました。実はスペイン・インフルエンザは、長らく「忘れられた」パンデミックだったのですが、コロナ禍によって逆に着目されるようになったのです。

今まさに世界に蔓延する新型コロナウイルス感染症は、社会の仕組みや私たちの日常に大きな変容を迫りましたが、そこで芸術はどのような役割を果たすのか。芸術は、コロナ禍の時代にいかに「越境」し、人々の精神活動を豊かにできるのか。そんなテーマを研究するのも興味深いと思います。

国際文化学部には、さまざまな学問分野・領域を超えて学びたい、好奇心旺盛な学生に来ていただきたいですね。

この秋にはヨックモックミュージアムにおいて河本教授が監修を務める「ピカソのセラミックーモダンに触れる」展が開催されます。

ピカソのセラミックの世界を、いま改めて「モダン」―言い換えれば「クラシック」と融合する「モダン」―の視点から読み解く、刺激的な展覧会です。

会期/2022年10月25日(火)~2023年9月24日(日)

詳しくはこちらから


文化学科の卒業生をお招きしました
学ぶ領域が広かった文化学科
国際文化学部にも引き継がれ、発展すると期待しています

右:河本真理教授
左:栗山仁未(くりやま・さとみ)さん
2016年に文化学科を卒業後、外資系のBOSCH社に総合職として就職。
2019年にリクルート社に転職して、現在は主に海外子会社の経理ガバナンス管理を担当。
卒業論文のテーマは「ファム・ファタール(悪女)」。

栗山さんは私のゼミの一期生です。
卒論「時代の鏡像としてのファム・ファタール -作家、画家、観者の三観点から探るヴィクトリア朝絵画とその女性観-」は、文化学科の機関誌『文化学研究』に、優れた卒業論文として掲載されました。『文化学研究』は、卒論を掲載する稀有な学術雑誌です(国際文化学部開設後は『国際文化学研究』となる予定)。
栗山さんはなぜこのテーマを選んだの?
そもそも私はメジャーではない分野のほうが好きでした。日本人は印象派が好きな印象があるのですが、その裏側のイギリスで起きていたことに興味があったんです。
河本先生は本当に細かく卒論を見てくださいました。研究者としての姿を垣間見る思いでした。先生は学部長に就任してもゼミは担当されるのですか?
はい、もちろんです。
栗山さんとは卒業後もメールのやり取りを続けてきましたが、社会人になっても美術に関わる活動をしていますね。
はい。会議の内容や自分の考えを文字ではなく絵で表現する「グラフィックレコーディング」に興味があって。美術史の講演も聴いて、自分でも描いてみました。
とてもよくできていて感動しました。卒業しても美術史を忘れないでいてくれたのですね。国際文化学部の特徴は「実践プログラム」なので、ぜひ、学生の前でグラフィックレコーディングを実践してほしいと思います。
栗山さんはいろいろな領域を「越境」して活動している人ですね。最近はアメリカの公認会計士(USCPA)の試験に合格したとか。
はい。実は大学2年生のときに、簿記2級の資格を取得していました。
その際に、会計はビジネスの言語であることを学び、英語で会計がわかるようになれば、働くうえでも世界中の人と話せて楽しいだろうなと思い、USCPAの試験を受けました。
栗山さんの現在の仕事は経理ですが、「会計」という言語を使って世界の仲間と協働しているのですね。
文化学科には栗山さんのように、さまざまな「技」を持った人がたくさんいます。バレエを研究してダンサーになったり、漫画家になるなど、芸術家やクリエイターになる人もいます。
文化学科には、河本先生のようにずっと美術史を研究されてきた方がいる一方で、ダンスの授業をする先生もいらっしゃいました。教育スタイルも専門分野も多彩な先生方がひとつの学科にいらっしゃるのが面白かったです。
文化学科が国際文化学部になると聞いてどう思いましたか?
近年、多くの大学に国際系の学部があります。そのような状況の中で、新たに「国際」を冠して、文化「学科」から「学部」にするということは、本気で勝負に行くのだなと思いました(笑)。
確かに。今まで以上に、国際的な分野や留学に、志望する学生の目が向いてきた印象です。
さまざまな形で「越境」して経験を積むことにより、今までの「当たり前」から解放され、この不確かな時代を乗り切るための、困難に屈しない強さや、よい意味での図太さを身につけることができます。学生には、変化を恐れず、どんどんチャレンジしてほしいと思います。

ピロティにて。
河本教授の手には、卒業するときに栗山さんの代のゼミ生が贈った色紙がありました。
「栗山さんの専門であるサロメや、演習で講読した英語文献が、絶妙なバランスでコラージュされていて、ゼミの内容を(私の研究テーマである)コラージュの形式で提示するという卓抜な発想に感銘を受けました。ゼミの宝です」(河本教授)。「今でも取っておいてくださったことに感動しています」(栗山さん)。